ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜




 名花高校をあとにしたふたりは、約束通り河川敷へ向かった。

 奏汰、瑠奈、紗夜、日菜、集まったそれぞれと凜として頷き合う。

「冬真は……」

「ごめんね、少し遅れた」

 傀儡を伴って姿を現した彼に、特に変わった様子はないように思えた。
 不都合な記憶はまだ、忘却(ぼうきゃく)の彼方だろう。

「行こうか、最後の戦いへ」

 冬真の言葉に頷いた小春は深く息を吸う。

 その双眸(そうぼう)には、強い決意と覚悟が宿っていた。

「わたしたちはゲームを放棄する」

 はっきりと宣言すると、失った仲間たちの顔が走馬灯のように思い浮かぶ。

「誰も傷つけないし、殺さない。こんなくだらないゲームはもう終わらせる」



     ◇



 天界からその様子を眺めていた霊媒師は「はあ?」と気色(けしき)ばんだ。

「わたしの考案したゲームがくだらない? もーあったまきた! あいつら許さない!」

 一方で呪術師と祈祷師は興がるような笑みを口元にたたえる。

「どうする、陰陽師。奴ら、あたしたちに楯突く気だよ」

「誘われてるって分かってるけど、無視はできないよねー。霊ちゃんも激おこだし」

 祈祷師は続ける。

「まー、でも……ちょっとヤバいかもよ。脅威のイタルくんがいなくなったとはいえさ、人間界(した)に降りたらボクたちにもダイレクトに異能が効いちゃうし」

「関係ないし! 天界(こっち)でだって効くじゃん。いますぐ殺しにいかせて」

 感情のままに騒ぎ立てる霊媒師を、陰陽師は呆れたように一瞥(いちべつ)した。

「……落ち着け」

 彼は無表情が常だが、いまばかりはどこか不興(ふきょう)が滲み出ているように見える。

「確かにどちらでも異能力は有効だが、我々が受ける分には、ここの方が威力を軽減できるのも事実だ。人間ごときには適応できない空間だからな。……奴らがここで能力を使えば、その肉体は確実に破滅する」

 祈祷師は「ひゅー」と口笛を吹く。

「出たー、陰陽師サマの人間嫌い。要は奴らをここに呼んじゃおうってワケね」

「自滅も狙える。そもそも自滅覚悟なら、陰陽師がそれより先に叩き潰してくれるんだね」

 呪術師もあとに続いた。

 陰陽師は頑なに人間界へ降りようとしないため、向こうを戦いの舞台に選べばこちらが不利だ。

 さらには天界でしか使えない、そして陰陽師にしか使えない、禁忌(きんき)の異能がある────。

 こうも分かりやすく宣戦布告されたのでは、圧倒的な力の差というものを見せてやらなければならない。

 何せ連中は所詮、異能を借りているだけの、魔術師とも呼べない()()()()なのだから。

「……招待してやろう、我々の天界()へ」



     ◇



 突如として目を刺すような閃光(せんこう)が瞬いた。

 瞑った目を恐る恐る開けると、縦に長い楕円形(だえんけい)の穴が、空間を切り裂くようにしてそこにあった。

 白く飛んだ光が眩しすぎて、その奥は見えない。

「何、これ……」

 てっきり運営側の誰か、あるいは全員が現れるものだとばかり思っていたのに予想外の展開だ。

 しかし、直感的に分かる。
 自分たちが呼ばれているのだ。

 これは恐らく、天界へ続くポータルだろう。

「……行こう」

 小春が決然と光の穴へ飛び込むと、それぞれもあとに続く。

 ぽっかりと現れたポータルは、やがて禍々(まがまが)しい暗色に染まって消えた。



     ◇



 ぽた、ぽた、と包丁の切っ先から血が滴り落ちていく。

「…………」

 屋上には、莉子と雄星の遺体が転がっている。

 包丁で滅多刺しにされた彼らは血まみれで、その虚ろな目は何も捉えていなかった。

 ()を握り締める雪乃は、ほとばしる(まばゆ)い光を見た。

 小春たちが最後の舞台に向かったのだろう。