耳の奥で誰かの声がする。……誰だろう?
分からない。
分からないことが気持ち悪い。
なぜ、こうも思い出せないのだろう。
苛立ちともどかしさと焦りが感情をかき乱す。
(……もう嫌だ)
ひどく居心地が悪い。
ここにはあまりいたくない。
(いま、何時だ……?)
立ち上がってスマホを取り出したとき、ポケットから白い何かが落ちた。
────眼帯だった。
(何で、こんなもの……)
訝しみながら屈む。
伸ばした手が眼帯に触れた瞬間、電流が走ったかのような衝電流が走ったかのような衝撃に貫かれた。
『はい、どーぞ。戦利品だよ』
「……っ!?」
思わず膝をつくと、両手で頭を抱える。
強く締めつけられ、脳内をかき回されているような激痛が襲った。
不鮮明な過去の映像が脳裏を駆け巡る。
霧のようなノイズが晴れていく────。
「…………」
やがて、嵐のような頭痛が凪いだ。
半ば放心状態となった冬真は、しばらくそのまま動けなかった。
「……はは」
ふいに傀儡が乾いた笑いをこぼす。
冬真は緩慢と立ち上がると、落ちていた眼帯を踏みつけた。
「はぁ……。何で忘れてたのかなぁ。律のせいとはいえ自分に腹が立つよ。仲間とか自己犠牲とか、気色悪いと思った。僕がそんな奴らと同調するわけがない」
その顔に冷ややかな笑みが浮かぶ。
「甘いなぁ、律も大雅も。残念だったね、命懸けで僕を無力化したのにさ。悔しがってるきみたちの顔を見られないのが惜しいよ」
天国や地獄があるのなら、あるいは幽霊が存在するのなら、彼らにも聞こえているといい。
「まあ結局、僕がこうして元通りになった以上、きみたちの死はぜんぶ無駄だったってことになるね。ざまあみろ」
傀儡を伴って屋上をあとにすると、悠々と階段を下りていく。
思わず込み上げてきた笑いをこらえきれず、肩を震わせた。
必死になる小春たちの様子を思い出したのだ。
「運営側を倒す、ね。……ほざいてろ、ばかども。やれるものならやってみろ。勝手に死んどけ」
吐き捨てるように容赦なく毒づいた。
(最後に生き残るのは、この僕だけでいい)
◇
23時を回った頃、小春は布団に入ったものの、なかなか寝つけないでいた。
「…………」
この1か月足らずの間に、本当に色々なことがあった。
────最初はゲームに翻弄されて、ひたすら怯えていた。
まず真っ先に蓮が手を差し伸べてくれなければ、不安に押し潰されて、とっくに生きることを諦めていたかもしれない。
敵が味方になって、味方が敵になった。
何が正しいかなんていまでも分からない。
それぞれに譲れない信念があるから。
無謀とも言えるような目的と理想を前に、犠牲となった仲間たちも少なくなかった。
生き残るほどに生まれる責任。
多くの死の上に成り立つ現在。
彼ら彼女らの思いを背負って、いまはただ突き進むしかない。



