ステッキを向けられ、やむなく蓮が手に炎を宿そうとしたとき、ふいに声がした。
「……まったく、血の気が多いわね」
現れたのは、琴音だった。
小春と蓮は目を見張る。
瑠奈も同じく驚いたものの、すぐさま彼女にステッキを向けた。
「いつからいたの!?」
「和泉もあなたの仕業なのね。石化魔法か……」
琴音は問いかけには答えず、淡々と言った。
その口ぶりから、彼女自身も魔術師であることが分かる。
しかも、この場においてそれを隠そうという気はさらさらなさそうだ。
「それで、和泉からはどんな異能を奪ったの?」
「か、関係ないでしょ! 邪魔しないでよ。小春ちゃんたちを殺ったら次はあんたの番だからね」
強気に息巻く瑠奈に対し、琴音は涼しげな顔で口端を持ち上げた。
「頭を冷やしなさい。……また、飛ばされたいの?」
はっとした。昨日、小春を助けた魔術師の正体は琴音だったのだ。
瑠奈は慌てて彼女から距離を取った。
すっかり余裕を失い、恐れをなしているのが見て取れる。
「え、遠慮しとく! 今日のところは見逃してあげるけど、覚えておいてよ!」
詳しくは分からないけれど、身をもって彼女の能力を体験した瑠奈は、敵わないと判断してか早々に退散した。
「あの、ありがとう。瀬名さん」
「気にしないで。大変な目に遭ったわね 」
労る琴音の眼差しは、思いのほか柔らかく優しかった。
てっきり、もっと冷たい性格で他人に無関心なものだとばかり思っていた。
「……おまえも、魔術師ってことでいいんだよな」
瑠奈のこともあり、警戒心を剥き出しにしながら確かめるように問う。
「ええ、そうよ」
「どんな異能を持ってるの……? “飛ばす”っていうのは────」
「待って。あまり遅くなるといけない。続きは昼休みといきましょう。信用できるもうひとりの魔術師も紹介するわ」
先に戻るよう言われ、小春と蓮は校舎に入った。
「まさか、助けてくれたのが瀬名さんだったとは……」
「割と友好的だったよな。ほかの魔術師も紹介してくれるってことは、あいつも協力し合える仲間を増やしたいって考えてんのかも」
「誰だろうね? もうひとりの魔術師って」
「予測もつかねぇな。……ってことは、うまいこと隠して紛れ込んでる奴だ」
小春たちが教室に戻ってから、およそ5分後に琴音も戻ってきた。
思わず窺うように見やったけれど、彼女は徹底して目を合わせなかった。



