午前中、眠りに落ちている瑚太郎を除き、昨日と同じ面々が廃トンネルに集った。

「じゃ、大雅。頼む」

 蓮の何処か緊張を滲ませたような声音を聞き、大雅は頷いた。

 ひとまず小春をテレパシーで呼び出すつもりだ。会わないことには始まらない。

 恐らく至もついて来るだろう。

 彼とはテレパシーを繋げていないため、今日会って繋いでおきたい。

「いいか、蓮。確かに俺は小春の記憶を取り戻せる。でもな、思い通りの成果が得られるかは微妙なとこだ。失うたびにすべてを取り戻すことは出来るけど、記憶がなくならないようにするってのは無理」

 テレパシーを使えば、なくした記憶を取り戻せる。それは確かだ。

 しかし、小春の場合は色々と例外である。どうなるかはやってみなければ分からない。

 すべての記憶を取り戻しても、明日になればまた何もかも忘れてしまうかもしれない。

 記憶の回復は、今日限りかもしれない。

「……それでもいい。つか、それでもやって貰うしかねぇよ」

 蓮は存外すんなりと、大雅の示した無慈悲な可能性を受け入れた。

「小春の身に何があったのか……。まだ残ってる謎を、小春にしか分からないことを、あいつの言葉で聞きたい」

「────分かった」

 大雅は静かに頷くと、そっと顳顬に指を添えた。

「小春、聞こえるか。俺は桐生大雅。至から聞いてるかもしんないけど、蓮たちの仲間だ。今、テレパシーでお前に話してる。顳顬に触れればお前の言葉も俺に届くぞ」

 少し間があった。

 蓮や奏汰、瑠奈は何処か不安そうに大雅を見つめる。

 紅と律は特段表情を変えないまま、黙って展開を見守った。

『……桐生くん?』

 探るような、窺うような、あるいは縋るような、細く小さな声が返ってきた。

「ああ、そうだ。聞こえるぞ。なぁ、今から何処かで会えねぇか? 俺がお前の記憶を取り戻────」

『助けて』

「え?」

『至くんが……っ』

「小春? おい!」

 それ以降はいくら呼びかけても、彼女から声が返ってくることはなかった。

 切羽詰まったような雰囲気だった。

 明らかにいい予感はしない。

「どうしたんだよ?」

「何か、様子がおかしい。“助けて”って」

 そう言うと、蓮が血相を変えた。

 考えもなしに飛び出して行こうとする彼を、奏汰が引き止める。

「蓮、待った。せめて何があったのか聞いてから」

「至がどう、とか言ってたから、至の身に何かあったのかも」

 彼らは今何処にいて、どんな目に遭っているのだろう。

 不安感が波のように押し寄せ、焦りが生じる。

「日菜、無事か? お前らの拠点教えてくれねぇか」

 大雅はすぐさま日菜とテレパシーを繋いだ。

 昨日も学校にいたようだし、今日もそうかもしれない。

 それならば、彼女が危険な目に遭っているということは恐らくないだろう。

『無事、ですが……。えぇと、私たちの拠点は────』

 予想通り、日菜は今日も登校しているようだ。

 至たちの身に何かが起きているらしいことは、彼女も知らなかった。