呟いた冬真は難しい顔をした。
自分の知る運営側、少なくとも祈祷師は味方してくれていたはずだ。
いつ、何に関して協力してくれたのかは忘れてしまったけれど。
「ま、まあまあ……。ともかく冬真くんがこうなった以上、警戒すべきはアリスちゃんひとりってことだよね」
とりなすように瑠奈が言った。
「そうだ。あいつ、何でいねぇんだ?」
恐らく冬真なら把握していたはずだけれど、先ほどの口ぶりからして覚えていないだろう。
あまり追及すると、本来の記憶が戻ってしまいかねない。
「何とかしてアリスちゃんを捜し出したいところだよね」
「期日まで時間がないのは向こうも同じだ。有栖川氏の方も我々を捜しているのではないか?」
冬真の記憶のことも知らないはずだ。
大雅たちに会いにいったことは把握していたとしても、生存者リストを見た限りでは、冬真の完勝を信じて疑わないだろう。
けれど、そのあと連絡を絶たれたら混乱するにちがいない。正気ではいられないはずだ。
冬真に切り捨てられた依織と、同じ末路をたどるのではないかと。
(連絡……。そうだ、まずい)
はっとした小春は冬真に向き直る。
「冬真くん、ちょっとスマホ貸してくれない?」
アリスから連絡でも来ようものなら。
そして、トーク履歴を見られたら一発でアウトだろう。
すべてを思い出してしまったら、今度こそ終わりだ。
大雅と律の勝利、つまり彼らの作ってくれた最後の機会も無意味なものになってしまう。
「スマホ? いいけど」
冬真は訝しみつつも素直に差し出した。
半ば奪うようにふんだくった蓮はメッセージアプリを開き、慌てて履歴を削除しておいた。
「危ねぇ……」
そんな彼の様子に冬真は首を傾げるも、幸いそれだけに留まってくれた。
「アリスのことだけど、あの子はなぜか一方的に如月を仲間だと思い込んでる……」
紗夜は先んじて嘘をつく。
ふたりが顔を合わせるようなことがあったとき、アリスの反応に違和感を覚えさせないためだ。
「へぇ、そうなんだ。何でだろうな。……でも、だったらそれを利用して呼び出せるんじゃない?」
「確かに! ナイスアイディア」
思わず瑠奈が同調する。
懸念と不安は拭えないものの、それこそが彼女をおびき寄せられる確実な方法だろう。
ちょうどそのタイミングで冬真のスマホが震える。
アリスからメッセージが届いたところだった。
【生存者リスト見たで。桐生と佐久間のこと片づけられたんやな。早坂もあんたの仕業か?】
【何にしろ残りの顔ぶれ見た限り、如月の天下取りは確定やな】
スマホを持つ蓮とその画面を覗き込んだ小春は、ほっと胸を撫で下ろす。
冬真に見られなくてよかった。
素早く“河川敷に来い”とだけ打って送信しようとした蓮を、小春は「ちょっと待って」と制する。
明らかに冬真の口調ではないし、冬真らしくもない。
「あの子、結構鋭いから生半可じゃ罠だってバレちゃうよー」
瑠奈も小声で同調する。
「じゃあどうすんだよ」
拗ねたように口を曲げ、小春にスマホを渡した。
それを受け取り、考え込むように視線を巡らせる。
何か、もっともらしい口実はないだろうか。
「わたしの名を出すがいい」
いち早く察した紅が名乗りを上げる。
「あいつは、この中では特にわたしを目の敵にしている。わたしを見つけたと言え」
「……分かった」
小春は頷くと、文字を打ち直して“河川敷に来て”と紡いだ。
それから、続けてメッセージを送る。
【藤堂紅を見つけた】



