「!」
うろたえるような冬真、それから大雅たちの遺体や地面を染める赤黒い血を目の当たりにして、ひどく動揺してしまう。
衝撃的な光景だった。
蓮は鋭く冬真を睨みつける。
「……おまえがやったのか」
責めるような懐疑の目に戸惑いながら、慌ててかぶりを振る。
腰を浮かせると、そばに横たわる男子生徒の遺体に触れて傀儡にした。
「僕じゃない。僕が仲間に手をかけるはずないだろ」
「“仲間”……?」
倒れている3人は、確かにもともと彼の一味だった。
けれど、いまはちがう。
ヨルはともかく、大雅も律も冬真とは完全に決裂していた。
彼らを殺そうとまでした冬真が“仲間”なんて称するのはおかしい。
それに、何だか様子が変だ。
この間相見えたときとは明らかに人がちがう。
「有栖川さんはどこに?」
「知らない。彼女は裏切り者だ」
まさか、冬真のことも裏切ったのだろうか。
一瞬そう思い至ったものの、運営側が送ってきた生存者リストを思い出す。
冬真を裏切ってまで取り入るような相手はいないはずだ。
警戒心と違和感が膨らんでいく。
身構えてここまで来たのに、何だか冬真からは殺意や敵意が感じられない。
「何が、あったの?」
訝しむように小春が尋ねると、冬真は力なく首を横に振る。
「分からない……。誰かと戦ってたはずなんだけど、気づいたら意識を失ってて、目が覚めたらみんな死んでた。何があったのか、まったく思い出せない」
その言葉にふとひらめくものがあった。
もしかすると、律が決死の覚悟で記憶を操作してみせたのかもしれない。
お陰で敵意を忘却してくれたのだろう。
それだけに留まらず、冬真の中ではきっと、小春たちとはもともと仲間だというふうに書き換わっている。
それぞれ、思わず彼らに目をやった。
一度俯いた蓮は悔しげな面持ちで大雅の傍らに屈み込む。
「ばか野郎……」
固く目を閉じたまま血まみれで息絶えている彼の襟を、ぎゅう、と掴んだ。
「おまえに助けてもらってばっかじゃねぇかよ。いつも……小春が消えたときも、戻ってきたときも、おまえは助けてくれたのに。俺は……」
呼吸を震わせた小春の視界がじわ、と滲んだ。
「仲間だって、助けにいくって、言ったのに……」
「佐久間くんも佐久間くんだよ。なに最後にかっこつけてくれてんの……」
ふと瑚太郎のそばに屈んだ瑠奈は、その顳顬の弾痕を指した。
「これ、自分で……?」
痕跡的にそうとしか考えられない。
ヨルに乗っ取られるくらいなら、と自我のあるうちに死を選んだのだろう。
「……っ」
ひとえに、みんなを守るため。
3人が3人ともそのために命を擲った。
そのときだった。
ふいに刺すほど眩い光がひらめいて、思わず目を瞑る。
次の瞬間には、彼らの遺体が消えていた。
冬真が声を借りている男子生徒だけは、傀儡にしているからかこの場に残ったままだ。
「うそ、消えた……」
「天界とやらに還ったのだろうな」
死後、一定時間が経過すると、魔術師の死体はそうなるようだ。
運営側が回収しているのだろう。
「大雅たちが誰にやられたか、みんなは知ってるの?」
傀儡を介して冬真が不安気に尋ねた。
「────運営側だ」
紅は悩むまでもなく淡々と嘘をつく。
“ヘイト”はまとめて連中に向けてしまえばいい。
「運営側……」



