紗夜は小さく答える。
とっさのことだったとはいえ、結果的に自分が殺してしまったのだ。
「冬真くんが手を貸してたんでしょ? もしかしたら、うららちゃん殺害を果たしたイコール用済みってことで、始末したのかもよ」
「それもありうるよな。冬真のことだし」
瑠奈の言葉に蓮は頷いて同調した。
「ところで、この朝比奈氏と斎田氏とやらについては把握しているのか?」
「ああ。そいつらはな、名花の魔術師だ。雪乃いじめの主犯格で付き合ってる」
「要するにカスカップルってわけね……」
紗夜は容赦なく蔑むように言った。
あのふたりは恋人同士だけれど、最終的な意向も保有している異能も不明だ。
小春の信念によれば、彼女たちも守るべき対象に含まれているのだろうけれど、積極的に手を取り合いたい連中ではなかった。
莉子たちとはゲームについて話し合う気も、関わり合う気もない。
「如月氏や有栖川氏といい、そのふたりといい、守る価値なんてなさそうだが」
腕を組み、紅が淡々と言ってのけた。
全員、その気持ちは理解できる。
小春も否定はできなかった。
「……でも、守る命と切り捨てる命を選んだら、何だか運営側の連中と同格になっちゃう気がする」
命を弄んだり生死を左右したりする資格は、自分にはないのだ。
その性根に関係なく、魔術師たちはみんな同じ立場なのだから。
もちろん、冬真やアリスのことは許せないというのが本音だった。
仲間たちの、そしてほかにも多くの人の命を奪った。
だけど、彼らとてこんなゲームに巻き込まれなければ、普通の高校生として生きていたはずだ。家族や友だちだっている。
ゲームが生み出した負の感情に翻弄されるべきじゃない。
「……そうだな」
頷きながらも半ば圧倒されてしまう。
ただの綺麗事ではなかった。
小春がそれほどまでに強固な信念を持っていたなんて。
「だけど、それはそれとして。現実問題、如月やアリスを何とかしないとでしょ……」
紗夜が言う。
怨恨や因縁は根深いけれど、殺して復讐するという選択肢はない。
「わたしがどうにかしよう」
紅が名乗りを上げた。
時間を止めることに対しては、誰がどんな手を使おうと対処しようがない。
停止した世界は、術者のてのひらの上なのだ。
「でも、劣化と反動が……」
「問題ない。拘束することくらいはできる」
紅は気丈に跳ね除けた。
────とっくに覚悟は決まっている。
「分かった。そしたら、あいつら捜さねぇとだな」
「どこにいるだろう?」
「そういえば、アリスに河川敷の高架下がバレたんだったよな」
昨日はそれで彼らが来ることを危惧して解散したけれど、それなら。
「そこにいれば来るんじゃ……?」
◇
「……っ!」
はっと目を覚ました冬真は顔を歪め、思わず両手で頭を押さえた。
ずきずきと激しい頭痛に襲われるも、意識の明瞭化とともに徐々に治まっていく。
いったい何をしていたんだったか。
思いを馳せると、ほんのりと曖昧に蘇ってくる。
(誰かと戦ってたんだ。それで、どうなったんだっけ……?)
ゆっくりと身体を起こしたとき、ざっと数人の足音がした。
河川敷の高架下に下りてくる小春たちと目が合う。



