雪乃は少し驚き、苦く笑う。
「……あたしは自分で復讐を選んだ。何度も何度もあいつらを殺した。異能ももう使いものにならない。こんなあたしがいても、水無瀬さんの邪魔になるだけです」
悲観しているわけでも、卑屈になっているわけでもなかった。
復讐のために寿命を削っていることには後悔なんてない。
「向井から、運営側を倒すって聞きました。あたしは仲間にはなれないけど、味方……っていうか。信じてます」
雪乃の瞳に陰鬱な影はなかった。
その思いと言葉を受け止めて、小春は凜と頷く。
背負っているのは自分の覚悟だけじゃない。
立ち止まっている暇なんてなかった。
ふたりが学校を出ると、校門前には紅のほか、瑠奈と奏汰、紗夜の姿があった。
大方の事情は紅が説明してくれているようだ。
「五条さん、どうだった?」
奏汰が尋ねると、蓮は首を横に振る。
「なんつーか、一緒に行動はしねぇけど味方ではある感じ」
積極的に害したりはしないものの、助けたりもしないだろう。小春は別として。
「紅ちゃん、ちょっといい?」
小春は彼女に向き直る。
「その時間停止魔法、いまは何秒止めていられるの?」
紅は一瞬目を見張り、すぐに普段の無表情に戻って目を伏せる。
「……劣化のことでも聞いたのか。確かにわたしも例外ではない」
異能は確実に劣化している。
アリスを攫ったときも、1分と経たずして限界を迎えた。
46秒。次に止めるときにはもっと短いはずだ。
「停止できる秒数の減少に規則性があるわけではないから、はっきりとは言えない。分からないが46秒未満、というのが答えだ」
「ごめんね、あたしのせいで……」
瑠奈はしおらしく謝った。
失踪していたとき、幾度となく紅の能力に助けてもらった。
「何を言うのだ。胡桃沢氏のせいではない」
「だけど、今後は考えて使わないと肝心なときに大変なことになる……」
紗夜が物憂げに言った。
いまとなっては、紅の異能だけが頼りだ。
────ふいにスマホが鳴った。
その場にいる全員だ。
「!」
「わ、何?」
取り出してみると、ウィザードゲームのアプリからの通知だった。
こんなこと、いままでになかったのに。
訝しみながら開いてみる。
“中間発表”と、銘打たれたメッセージが届いていた。
【12月4日まで、残り7日となりました。
現在の生存者を発表するよ〜!
※本日からは毎日午前9時に公表されます。
・朝比奈 莉子
・雨音 紗夜
・有栖川 美兎
・如月 冬真
・胡桃沢 瑠奈
・五条 雪乃
・斎田 雄星
・佐伯 奏汰
・藤堂 紅
・三葉 日菜
・水無瀬 小春
・向井 蓮
以上、12名。
各自殺し合い、頑張って生き残ってください】
何度も名前のリストを見返した蓮は、神妙な面持ちで呟く。
「……ないな、あいつらの名前」
やはりと言うべきか、大雅と律は亡くなっていた。
さらには瑚太郎と結城依織の名前もない。
「百合園さんを襲ったあと、結城さんに何があったんだろう」
「わたしの毒が回ったんだと思う……」



