ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 蓮は頷いた。
 自分が頼んだときは断られたけれど、小春の申し出なら無下(むげ)にはしないだろう。

「わたしも名花へ向かう。そこで落ち合おう」

 紅の言葉に頷き、小春は手をかざす。

 光学迷彩の結界に入って地面を蹴り上げると、蓮の手を引いて空へ舞い上がった。



 名花高校へ降り立つ。
 校内に飛び込んで雪乃を捜した。

 やはりと言うべきか、行方不明になっていた小春が現れても騒ぎになることはなかった。

 大雅の言っていた通り、周囲の異常さが際立ってきている。

「いた……!」

 廊下の突き当たりに彼女の姿を見つけた。

 莉子やその取り巻きに囲まれ、雄星に背中を踏みつけられているようだった。

 蓮が「あいつ」と低く呟く。

 小春はてのひらを向け、閃光(せんこう)を瞬かせた。
 目を(くら)ませている隙に雪乃の手を取って駆け出す。

 ────渡り廊下に出ると、その足を止めた。

「水無瀬さん……」

 見張られた雪乃の瞳が揺れる。

「よかった、生きてた……」

 蓮はそういえば、と思い返す。
 小春と再会したことを言いそびれていた。悪いことをした。

「雪乃ちゃんにお願いがあるの。時間を巻き戻して欲しい」

「何でです……?」

 なぜか彼女の表情が強張る。

 身勝手なのは承知だけれど、理由を説明している時間はなかった。

「頼む、わけならあとでいくらでも話すから」

「けど……」

「おい、頼むよ!」

 何かをためらう雪乃に、強引に懇願(こんがん)した。

 それでは怖がらせてしまう、と小春は案じたものの、彼女が怯えたりすることはなかった。

 どん、と苛立ったように蓮を突く。

「無理なんだって! あたしもう、1回につき30秒くらいしか巻き戻せないんだよ!」

 面食らったように言葉を失った。

 どういうことなのだろう。
 “最大で2分間”という話だったはずだ。

 雪乃も眉を寄せた。

「あたしも最初は知らなかった。でもな、どうやら時間操作系の異能は、使用を繰り返すほどに劣化してくらしいんだ。……あたしは私怨(しえん)で巻き戻しすぎたみたいだな」

「そんな……」

 とんだあと出しのルールだった。

 30秒前といえば、名花高校に着いた頃だろうか。
 巻き戻しても全然間に合わない。

「ごめんなさい、水無瀬さん」

 力になれないことを心苦しく思いながら謝ると、小春は慌てて首を左右に振る。

「こちらこそ無理言ってごめんね」

 神妙な顔で黙り込んでいた蓮は、おもむろに口を開く。

「……時間操作系っつったか?」

「たぶん、時間停止とかもそうなんじゃないか? 繰り返し使えば、止められる時間がだんだん短くなってるはずだ。空間操作系とか回復とかそういうほかの強力な異能も劣化してくと思う。……でもな、反動は小さくならねぇ」

 たとえば、巻き戻せる時間が短くなっても、停止していられる時間が短くなっても、強烈な反動だけは変わらず術者を苦しめる。

「……雪乃ちゃん」

「はい……?」

「わたしたちのところに来ない? もちろん、莉子たちからも守る」

 蓮の提案がなくとも、いずれこう言うつもりでいた。