どうやら、自身を消したのは小春だと誤解しているようだ。
魔術師であることを見破ったわけではなかった。
「わたしは何も……。いきなり瑠奈が目の前から消えて、本当に怖かったんだよ」
その言葉に瑠奈はさらに憤った。そんな言い訳は通用しない。
嘘つき、と罵ろうとしたものの、とっさに言葉を飲み込む。
小春が泣きそうな表情で息をついたからだ。
「よかった……無事で」
噛み締めるように呟いた彼女に、蓮は呆れてしまう。呆れるが、それでこそ小春だとも思う。
いつだって自分より他人を想い、優先するのだ。
「ば、ばかじゃないの! 右手、なくなりかけたくせに」
「でも、なくならなかったよ」
「それはあんたに邪魔されたから! それがなければ今頃、小春ちゃんの右手は石になって粉々だったのに」
瑠奈は怒気を滲ませた眼差しを小春に突き刺した。
「自分であたしを飛ばしておいて、何が“無事でよかった”よ……。白々しい」
飛ばした……? 小春と蓮は一瞬視線を交わした。
「どういうことだ? おまえの身に何があったって言うんだよ」
「何で蓮くんまでとぼけるの? あれだけ一緒にいたんだから、小春ちゃんの魔法くらい把握してるでしょ」
「あーもう、うぜぇな」
蓮は苛立たしげに言うと、かえって決然と告げる。
「俺も小春も確かに魔術師だ。でもな、小春は異能なんか持ってねぇよ。俺が保証する」
「保証? 画面も見てないのに何で分かるの?」
「小春がそう言ったから」
真剣な顔で言ってのけた蓮に、小春は思わず嬉しいような気恥ずかしいような気持ちになった。
それほどまでに信用されているとは思わなかった。
「何それ、そんなの何の根拠にもならないし」
腕を組んだ瑠奈はふたりに詰め寄った。
「じゃあ、なに? あの場にあたしと小春ちゃん以外に別の誰かがいたって言うの?」
「……そうとしか考えられない。だって、わたしは何もしてないから」
「小春ちゃんはそいつのこと見たの?」
「それは────」
見ていない、というのが答えだった。
あの場に第三者がいたと主張する小春自身、それが信じがたいのだ。
瑠奈が消えたあと、誰の姿も気配もなかったのだから。
「もういい。どうせならもっと上手に嘘ついてよね」
瑠奈はカーディガンの袖口からステッキを取り出した。
昨日のことを思い出した小春は思わず身を硬くする。
蓮はすぐさま彼女の前に立ち、いつでも応戦できる態勢を取った。
「ふたりまとめて石にしてやる」



