これが、最後の機会だ。
瑚太郎は涙を流した。
「ごめん、大雅くん……」
“生きろ”と言ってくれた。
負けるな、と。諦めるな、と。
叶うなら、そうしたかった。
ヨルになんて屈したくはなかった。
瑚太郎として、最後まで戦いたかった。
「本当にごめん、みんな」
諦めるわけではない。
負けを認めるわけでもない。
「でも、どうしてもおまえだけはここで殺さなきゃいけない……!」
瑚太郎は人差し指の先を、つまりは銃口を、顳顬部分に押し当てた。
ざわ、と心が騒ぐ。
暗い夜の森を風が駆け抜けていくようだ。
(やめろ!)
ふいに身体が強張った。
意思とは関係なく、勝手に末端から硬直していく。
彼が必死に抵抗しているのだろう。
そのうち瑚太郎は、自分の意思では動けなくなるはずだ。
残された時間はわずかだった。
「……これは僕の身体だ。僕の人生だ。僕が決める」
目を瞑った。
つ、と涙が頬を伝い落ちる。
(てめ────)
「……うるさい」
水弾を発砲した。
鮮血が翻り、瑚太郎は地面に崩れ落ちる。
自らが死ぬことでヨルを葬る。
この選択に、悔いはなかった。
◇
星ヶ丘高校へ降り立った小春と蓮はあたりを見回すも、彼らの姿はどこにも見当たらない。
小春は顳顬に触れてみる。
「大雅くん、大丈夫?」
いつもならすぐに反応があるのに、声は一向に返ってこなかった。
胸騒ぎがする。
嫌な予感が膨らんでいく。
同じ感覚を覚えた蓮は彼に電話をかけるも、どれだけ待っても応答なしだ。
「嘘だったの……?」
そう呟いた声は掠れて溶けた。
星ヶ丘高校へ行くというのも、助けて欲しいというのも嘘だったのだ。
小春たちを、仲間たちを守るための。
「くっそ……!」
蓮は苛立ち混じりにフェンスを殴った。
「……やはりな」
ふいに声がしたかと思うと、遅れて紅が姿を現した。
重苦しく沈んだ空気から事態を察する。
俯いたまま顔を上げないふたりを見やって、口をつぐんだ。
「これからどうしたらいいのかな……」
小春は力なく呟いた。
大きな喪失感が、心にぽっかりと穴を空ける。
これまで積極的に全員をまとめ、能動的に動いてきてくれた大雅。
律を説いてくれたのも彼だ。
記憶の件に関しても、彼には本当に助けられた。
それなのに彼が追い詰められたとき、そばにいることさえできなかった。
結局、最後まで守られっぱなしだ────。
「……なあ、あいつ引き込めねぇかな」
ぽつりと蓮が言う。
「あいつ?」
「雪乃」
少しでも仲間は増やしたいし、雪乃の能力があれば実質的に蘇生も不可能ではない。
はたと小春は思い至った。
大雅たちはどうだろう。
テレパシーや電話には弱っていて応えられなかったか、服従させられていただけかもしれない。
既に死んでしまっているとしても、2分以内の出来事かもしれない。
もしそうなら、いますぐ雪乃に会えば、時を戻して生き返らせることができる。
だめでもともとだ。
「そうだね、雪乃ちゃんなら……」



