じわ、と赤い染みが滲んで広がる。
重く響くような痛みにくらりとしたものの、その動きは俊敏なものだった。
放たれる水弾の隙間を縫うように駆け抜け、一気にヨルと距離を詰める。
じっと双眸を覗き込んだ。
彼の頭の中には、相変わらず漆黒の闇が広がっている。
何も見えない。まるで新月の夜だ。
伸ばした手で腕を掴むと、突然のことにヨルはうろたえる。
「な……」
すぅ、と瞳から光が失われていき、構えていた腕が下りた。
「はぁ……はぁ……。痛ってぇ」
銃創と反動、その苦痛に苛まれる大雅は肩で息をしていた。
傷口を押さえると熱い血があふれてくる。
ゆっくりと顔を上げ、目の前の彼を見た。
「瑚太郎……。おい、目覚ませよ」
その胸ぐらを掴んで揺さぶる。
どうすれば、この声が届くというのだろう。
ヨルの言う通り、本当にもう瑚太郎はいないのだろうか。
「くそ……」
くしゃりと髪をかき混ぜた、そのときだった。
(……ごめん、大雅くん。本当にごめん……)
微かに声がした。
意識しなければ聞こえないほど小さく、いまにも消えてしまいそうだ。
「瑚太郎!?」
どうやらテレパシーのようだった。
大雅による操作は、その間、対象に意思も記憶もなくなるはずなのに。
瑚太郎の場合、色々と例外のようだ。
(僕は……どこか暗くて深いところに閉じ込められたみたいだ。昨日の夜からずっと、ヨルのまま戻れない。さっきのこともぜんぶ見てた。でも、やめろっていくら叫んでもヨルには届かない……!)
必死なその声は震えて掠れていた。
(手遅れになっちゃった。ぜんぶ僕のせいだ。みんなを失いたくなくて、ずっと隠そうとしたから……)
「ちがう、おまえは悪くねぇよ。真剣に向き合わなかった俺たちのせいでもある。おまえはひとりで戦ってたんだろ、俺たちのために!」
(大雅くん……)
「何か……何かあるはずだ。おまえがヨルに打ち勝つ方法。早坂瑚太郎でいる方法。俺たちが見つける。だからどうか耐えてくれ。頼む」
(……だめだ)
ぽつりと呟くように瑚太郎は返す。
既に何もかも諦めてしまったかのようだった。
(もう無理だって分かるんだ。このままいたら、ヨルがみんなを殺してしまう……。僕はそれを、ヨルの中から黙って見てることしかできない。耐えられないよ……!)
「瑚太郎……」
悲痛な叫びだった。
まるで冬真による傀儡と変わらない。
解放されることがない分、さらに酷だろう。
(だからお願い。このまま僕を殺して────)
「……っ、ばかか! できるわけねぇだろ」
(お願い……大雅くん。僕が死なない限り、ヨルは止められない。どうか頼む、みんなを殺したくないんだ!)
瑚太郎は涙混じりに懇願した。
それ以外にヨルを封じる方法はないのだ。
大雅にも理解できる。理由に納得もできる。
状況を鑑みれば、そうするべきなのかもしれない。
だけど、と思い直す。



