ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜

     ◇



 大雅と律は河川敷の高架下に来ていた。

 ここはアリスにバレているため、仲間たちも来ないはずだ。

「どうなるんだろうな、瑚太郎は」

「……どう、と言っても、自分でヨルに打ち勝つしかないだろう」

 あるいは自分たちがヨルを手懐(てなず)けられたら、冬真たちを倒す糸口になるかもしれない。

 ただ、人格交代についてまだ掴めていないことが多すぎる。

 日中にもヨルが現れたということは、瑚太郎の主人格が侵食されている可能性があった。

 とにもかくにも、まずは瑚太郎本人と話すほかにない。

「……なあ、どうする?」

 あらかじめ呼び出しておいた瑚太郎が来るのを待つ間、大雅は窺うように言う。

 冬真やアリス、そしてヨルのことだ。
 同じことを考えていたせいか、律にも言わんとすることがすぐに分かった。

 彼らは命ある限り再起を図り、とことん敵対してくるはずだ。

「俺は────」

 ────律はいつにも増して険しいほど真剣な面持ちで、考えを打ち明けた。

 それを聞いた大雅は神妙に頷く。

「なら、冬真はおまえに任せるぞ。俺は瑚太郎を引き受ける」

「……ああ」

 律はこくりと首を縦に振る。

 両手をポケットに突っ込んだまま、大雅は物憂げに(くう)を眺めた。

 ……予感がする。

 もう、抜け出せない泥沼に()かっている。
 逃げ道もそんな選択肢もない。

 やり遂げるか死ぬか、ただそれだけだ。



「!」

 河川敷の階段を下りてくる人影が目に入った。

 瑚太郎、もといヨルと、そのあとを悠然と歩く冬真。

 声代わりになっている男子生徒の遺体も連れているけれど、アリスの姿はない。

 大雅たちは別段驚かなかった。

 終焉(しゅうえん)へ近づいているのは分かっている。
 冬真とて、この機会を逃すわけがないだろう。

 瑚太郎がヨルに侵食されつつあることも含め、予想通りだ。

(悪ぃな、小春。もともと冬真に関する面倒ごとは俺たちが持ち込んだんだ。おまえらを巻き込めねぇよ)

 仲間────()()()

 高架下で足を止めた冬真は、大雅と律にそれぞれ目をやって微笑んだ。
 随分と機嫌がよさそうだ。

「昨日、アリスにここを聞いて来てみたけど誰もいなかったんだよね。逃げられたかと思ったけど、ヨルときみのお陰で好機を得た。感謝するよ」

 してやったり、とでも思っているのだろうか。
 大雅は笑う。

「それはこっちの台詞だ。瑚太郎が瑚太郎じゃねぇことも想定内だ」

「その上で呼び出したんだ。頭のいい如月なら、この意味が分かるだろう?」

 挑発するように律が続いた。

 冬真は笑みを消して目を細める。

「……へぇ。僕に用があるってわけ?」

 餌にされたことを悟ったヨルは眉を寄せる。
 苛立たしげに前髪をかき上げた。

「おい、あいつら殺していいか?」

「まだだめ。ほかの連中の居場所を聞かなきゃならないから」

 不服そうに舌打ちしたものの、ヨルは大人しく引き下がった。

 意外なことに終始、冬真には従順だ。

 恐らく、彼が瑚太郎ではなくヨルを優先的に扱ってくれるからだろう。

 ヨルを認めて肯定しているわけではなく、単にその方が自分にとって都合がいいからに過ぎないのに。

 いいように利用されていることに気づいていないのだろうか。

 あるいは、承知の上で(すが)っているのだろうか。