瑚太郎に、だろうか。それともヨルにだろうか。
その口ぶりは何とも言えない胸騒ぎを引き起こした。
「どういう意味だよ。何か不穏な感じ出すのやめろよ」
『悪ぃ。でも、マジでもう誰がどうなってもおかしくねぇだろ? ……続くぞ、この死の連鎖』
「そんなこと……」
言いかけたものの、小春は結局口をつぐんだ。
そんなことない、なんて無責任なことは言えない。
そんなことにはさせない、と言えたらよかったけれど、それはもっと無責任だろう。
『12月4日が着々と近づいてきてる。時間がねぇ。分かるだろ、色んな変化。もういまとなっては、魔術師の死が事件にすらならねぇ。運営側は異能で、魔術師以外の洗脳を終えたんだよ』
「…………」
『小春が祈祷師から聞いた通りなら……12月4日に存在してる高校生は、東京でたったひとりだけってことになる。そんな事態を迎えても、いまや不信感を抱く奴は誰もいねぇだろーな』
「……改めて言葉にすると意味不明だな。何がしてぇんだ?」
蓮は怪訝そうな顔で眉を寄せる。
運営側はそんなことして何になるのだろう。
結局、何が目的なのだろう。
『さあな。それを考えるのは任せる。俺たちはあいつらと決着つけるから』
蓮は弾かれたように顔を上げた。
「ちょっと待て、大雅! あいつらって誰のことだよ」
『…………』
大雅は答えなかった。
────これからしようとしていることには、相当な覚悟を要した。
そして、悟っていた。
これが最後の機会になる、と。
だからこそ、いつもは綻びなんて見せない彼でさえ、つい口を滑らせてしまったのだろう。
胸騒ぎは膨らんでいく一方だ。
ヨルが冬真の仲間だというのなら、その時点で“あいつら”が誰を指すのかは明白だった。
「早まるなよ。前にも言ったろ。勝手に背負い込んでんじゃねぇよ!」
「大雅くん、お願い。考え直して。わたしたちは仲間じゃないの?」
もう、諦めたくない。
とにかく必死で言葉を紡いだ。
「記憶のことも会って直接お礼を言わせてよ。このままお別れなんて嫌だよ。大雅くんはいつも、自分より仲間のことを考えてる。人のために、自分を犠牲にしすぎだよ……!」
沈黙が続いた。
届いていないのかもしれない、と不安になるほど長い静寂だった。
『……おまえもな、小春』
「……!」
思わず息をのむ。つい泣きそうになった。
声はちゃんと届いていた。
『つーか、もともと俺たちそんな奴らばっかだろ』
慧にしても、琴音にしても、至にしても、いま生きている仲間たちにしても、みんなそうだ。
大雅は儚いような、微かな笑みを浮かべた。
「大雅くん、聞いて。律くんとふたりで行くなんて無茶だよ。お願いだから早まらないで。また守れなかったら、わたし────」
『十分守ってもらったぞ、俺。……でも、分かった。そんなに言うなら、いざというときはまた助けてもらってもいいか?』
「当たり前だよ! どこに行くつもりなの? 何をするの?」
『……星ヶ丘高校』
一拍置いて、大雅の静かな返答があった。
『勘違いすんなよ? ただ瑚太郎と話つけるだけだ。学校なら人も多いし、もしヨルに乗っ取られても迂闊に手出しできねぇだろ。関係ねぇ奴巻き込んでペナルティだ』
もっとも、ヨルにそういう自制心があるかどうかは分からないのだけれど。
「分かった。じゃあ蓮たちと行くから、着くまで待ってて」
『おう。……じゃあな』



