ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜

     ◇



 瞬くと、目の前からアリスが消えていた。
 紅の姿もない。

 彼女が時を止めている間に、アリスを連れ去ったのだろう。

 紅に電話をかけた瑠奈は、応答を確かめるとスピーカーに切り替えた。

「紅ちゃん、大丈夫? どこ行ったの?」

 ややあって、彼女の苦しげな息遣いが聞こえてくる。

『……平気だ』

「アリスは────」

『今頃キレてるんじゃないか?』

 冷ややかに嘲った紅はふと腕時計を見やる。

 時間停止魔法で停止していられる時間は、最大で1分間だ。
 ────しかし。

(46秒……)

 先ほどアリスを運んだときは、1分と経たずして限界を迎えた。

 だんだん、停止していられる時間が短くなっているように思う。
 紅は蒼白な顔で口元の血を拭った。

「戻って合流する」

『ちょっと待って。やめた方がいいかも』

 慌てたように小春が制する。

『アリスちゃんに場所が割れたってことは、もう冬真くんにも伝わってるはず。わたしたちが逃げないうちにここに来るかもしれない』

『だな。今日は一旦解散しよう』

 彼女たちの言葉に「分かった」と頷くと、おもむろに大雅が口を開いた。

「……いまのうち、全員に伝えとく。運営側に狙われた理由はルール違反だ。そのルールが何なのか分かった」

「なに……?」

「殺意の放棄だ。“殺さない”って明確に意思表示しちまうと、あんなふうに直接制裁を加えにくる」

 それぞれ神妙な顔つきになる。

 蓮も「なるほどな」と頷いた。だから、先ほど小春の口を塞いだわけだ。

「そんな……。わたし────」

 小春は愕然とした。

 意図も悪気もなかったとはいえ、運営側を呼び寄せたのは自分だったのだ。
 すべて、自分のせいだった……。

「おい、思い詰めんなよ。小春のせいじゃねぇ。俺たち全員、自分の意思で選んだことだ」

「蓮……」

 思わず窺うようにそれぞれを見やると、頷きや微笑みが返ってくる。

 心が震えた。
 “仲間”の存在が深く染み入る。

「みんな……」

 それは、このゲームに巻き込まれたことで得られた数少ない喜びだった。



 ────日が暮れる。
 星が瞬く夜道を遠回りして歩いていく。

 隣に小春がいるという事実を、蓮は改めて噛み締めた。

「……なあ、これからどうすんだ?」

 このまま家へ帰っても、眠って起きたらまたすべてを忘れている。

 正直なところ、せっかく取り戻した記憶を再び失ってしまうことがやりきれない。

「記憶の回復は今日限りなんだろ」

「……でも、もう怖くないよ」