いずれここが特定されるだろうことは予想していたものの、想定よりもだいぶ早かった。
至やうららの死を悼む暇もない。
スマホ片手にくるりと背を向けた彼女の周囲が、唐突に燃え上がった。
炎に包囲され、慌てて足を止める。
「うわ」
「冬真に報告する気だな。そうはさせねぇ」
そんな蓮の言葉に振り返ると、可笑しそうに笑った。
「どうせ、あんたらが殺せんことは分かってんねんで。頼みの八雲ももうおらん。何も怖くないわ。佐伯の硬直もせいぜい20秒やろ? 手も足も出せへんのに、どうするつもりや? 止められるもんなら止めてみ」
「……なら、このままずっと火で囲っといてやる」
「ウケる。あんた、あほやな」
嘲笑したアリスの背が突然ぐんと伸びたかと思うと、いとも簡単に炎を跨いでしまう。
かなり目立つ巨大化は、一見して魔術師だと露呈する。
だからこそこれまでは控えてきたけれど、いまやもう冬真がついている。
恐れるものなんてない。
「いまここで全員踏み潰してもええんやで? そうせず一旦引いてやるって言ってんねんから、感謝して欲しいくらいやわ」
唇を噛み締め、強く両手を握る。
アリスの言葉通り、こちらは手も足も出せなかった。
「あれでも守らなきゃならない対象なのか? 如月も有栖川も生かす価値などないだろう」
律にそう言われた小春は、一瞬俯くも意思を曲げることはなかった。
「……確かに許せるものじゃない。でも、すべての元凶はこんなゲームを始めた運営側にある」
彼女たちの歪んだ性格が元来の性質だったとしても、人殺しまではしなかったはずだ。
そうさせたのは、助長させたのは、この殺し合いゲームだ。
間違いなく運営側のせいなのだ。
「感情的になって目的を見失っちゃだめ。殺し合ったら、それこそ運営側の思うつぼだよ。だからわたしたちは誰も殺────」
ふいに大雅が手で覆い、小春の口を塞いだ。
彼女も蓮も、それぞれが戸惑う。
「何のつもりだよ」
「……言うな、それ以上」
大雅はただそう言った。
よく分からなかったものの、気迫に圧された小春は頷く。
「あーあ、相変わらずのお花畑やな」
小春を嘲笑ったアリスは、ぽんっと元のサイズにと戻ると手を振った。
「じゃあな」
────その瞬間、紅が指を鳴らす。
世界のすべてが止まった。
────時が動き出した。
はっと息をのんだアリスの双眸が揺れる。
足元から強い風が吹き抜けた。
気がつくと、どこかの高層ビルの屋上にいた。
一歩でも踏み出せば真っ逆さまという、ふちのぎりぎりに立っている。
「危な……」
思わずあとずさると、がさ、と背中の方から音がした。
伸ばした手が紙に触れる。
剥がしてみると、そこには“裏切り者”と大きく書き殴られていた。
「あのチビ女め……」
小さく舌打ちして紙を握り潰したアリスは、スマホを取り出して耳に当てる。
「もしもし、如月! あいつらの拠点見つけた。いまならまだそこにおるはずや。まずは時間停止の魔術師からぶっ殺そう」



