「はは、は……あはは……っ!」
復讐を遂げた達成感と、底知れない毒への恐怖が混在し、依織は狂ったように笑いながら走り出す。
その姿が門の向こうに消えると、紗夜は弾かれたようにうららに駆け寄った。
あまりの深手で傷も見つからないほど、とめどなく血があふれて止まらない。
彼女の顔がどんどん色を失っていく。
「ごめんなさい、紗夜……。やられて、しまいましたわ。あなたのことも、巻き込んでしまって……」
「いい、いいよもう、喋らないで。すぐ日菜を呼ばなきゃ」
「助からないですわ……これでは。もう、痛みもない……」
紗夜は喉の奥が苦しくなった。
息が詰まったのか、言葉が詰まったのか分からない。
視界が滲んで、強く唇を噛み締める。
それを見たうららは力なく笑った。
「何ですの、紗夜……。わたくしが死ぬのが、そんなに悲しいんですの……?」
いつものようにからかったつもりだったのに、その瞳にも涙が浮かんだ。
「わたくしはここまでですけれど……必ず、目的を果たして。紗夜……生き残って」
「うらら……!」
そうして、微笑んだまま息を引き取った。
紗夜はたまらず慟哭した。
◆
そんな最期を遂げたうららは、どれほど無念だったことだろう。
彼女だけじゃない。これまで犠牲になった全員がそうだ。
話を聞き、思いを馳せた小春は涙を拭った。
「……植物魔法、か」
「心当たりあるの……?」
大雅の呟きに紗夜は顔を上げる。
それぞれの脳裏に同じことが浮かんだ。
「……冬真だ」
◇
少し時をさかのぼる。
屋敷を飛び出した依織は、すぐそばの建物に向かった。
小さな町工場のようなその屋上へ駆け上がると、冬真とアリスがそこで待機していた。
「おかえり。復讐達成おめでとう」
遺体を介して冬真が言うと、依織の不気味な笑いがいっそう深まった。
「ぜんぶあんたのお陰だよ! 手を貸してくれてありがとう」
深く感謝しながら崇めるような眼差しを向ける。
うららへの復讐は唯一の願望でありながら、半ば諦めてもいた。
“無魔法”の自分にはなす術もないはずだった。
そんな無力な自分に手を貸してくれて、恨みを晴らす手助けをしてくれた冬真は、依織にとって救いの神のように思えた。
「…………」
彼は満足気に微笑む。
冬真としても、向こうの仲間は減らしておきたいところだった。
そのために依織の存在、その復讐心はちょうどよかった。
うららの異能は割と強力だ。
殺さずして相手の異能を奪うことができてしまう、厄介な能力でもある。
けれど、それももはや過ぎた話だ。
依織のお陰で脅威は天界へと還った。



