瞬時に見極めて手を伸ばすと、指先で額に触れる。
律はがくんと脱力した。
崩れ落ちるように倒れたかと思うと、目を閉じて意識を失っている。
「な……っ!?」
「ああ、危ない。もしかしていま、記憶消されそうになった? 恐ろしい異能だな」
ふわぁ、とついあくびをする。
眠気が急速に絡みついてきて、頭の中が霞みがかった。
「何を、しましたの!? この一瞬で佐久間さんを殺めた……?」
「いやいや、死んではないよ。────殺すと怒られちゃうし。彼はただ、眠ってるだけ。だから安心して」
威圧するように微笑んで答えた。
その傍ら、見えない小春を密かに窺う。
冬真はその場に屈み、律の息を確認した。
確かに生きている。
「どんな異能なんですの……?」
「さあ? 何かな」
首を傾げて見せる。
そう易々と明かすわけがない。
「あ、誤解しないで欲しいのは……俺は別にきみたちの敵じゃないってこと。いまのは不可抗力っていうか、自分の身を守っただけだから」
彼らの懐疑的かつ強い警戒心の宿る視線を受け止める。
きびすを返し、ひらひらと手を振った。
「じゃあね。起こせば目覚めるよ、いまならまだ」
────角を曲がった至はそのまま結界へ入る。
息を潜めて聞き耳を立てつつ、彼らの動向を窺った。
「傍から見るとすっごい気味悪いなぁ」
死体越しに話している様は不気味としか言いようがない。
死体を操る能力だろうか。
別に死体という縛りはなく、単に人を操れるのだろうか。
「ま、ともかくいまは大雅との取り引きが先決だね」
そう言って歩き出した彼らを尾行すると、星ヶ丘高校へ入っていった。
何らかの“取り引き”は、ここで行われる模様だ。
「……さて、そろそろ帰ろうか」
至は小春を振り返る。
何が行われるのかは気になるところだけれど、蓮や祈祷師とは無関係そうだった。
「でも、大丈夫かな……」
小春が何を気にかけているのかは容易に察せられる。
「ま、取り引きって言うくらいだし不穏な気配はするよね」
至は眉根を寄せた。
「それに、あの彼からは危険な香りがする。大雅とかいう子も無事じゃいられないかも」
それを聞いた小春の血相が変わる。
「助けにいかないと」
「待って。関係ないんだから、危ないことに関わるのはやめときな? 見ず知らずの相手でしょ」
わざわざ危険を冒して、赤の他人を助ける義理なんてない。
けれど、小春の固い意思は覆らなかった。
「危ないって知りながら放っておくことなんてできないよ」
至は諦めたように息をついた。
彼女は馬鹿正直で正義感が強い。
それは何度記憶がリセットされても変わらなかった。
「……分かったよ。それなら俺があの怪しい彼を眠らせる。そのために小春ちゃんも力を貸してね?」



