ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 もともと、至にはここまで肩入れするつもりはなかった。
 原動力は好奇心だけでもない。

 淡白(たんぱく)な中にもどこかお人好しな部分があり、日々小春を見ているうちに切り捨てることもできなくなってしまったのだ。

 放っておけば、また襲撃に遭ってわけも分からないうちに殺されるだろう。

 そうと分かっていながら、いまさら知らない顔はできない。

 小春を案じた日菜も、ふたりと協力関係を結ぶことになった。

 ただし、至はあくまで中立な立場だと主張した。

「これまでもそうしてきた。俺は気まぐれだから、誰の味方するかは気分次第だよ」

 至の瞳に興がるような色が広がる。
 ()いて言えば、自身の抱く興味の味方だ。

「それって、中立って言うんですか……。気分屋っていうか、利己的っていうか、日和見(ひよりみ)っていうか」

「ははは。まー、しばらくはきみたちの味方でいるよ。色々と心配だからね。……これは片足突っ込んだ俺の負けだ」



 ────翌日も小春への説明から幕を開けた。

【無事なのか?】

【どこ行ったんだよ】

【祈祷師と会ったのか?】

 そのスマホに絶えず届く蓮からメッセージに、至は真剣に目を通す。

「祈祷師……」

 何者なのだろう。誰かの異名だろうか。

 蓮は一貫して祈祷師とやらを警戒するような文言(もんごん)を並べていた。
 敵にあたることは間違いない。

 この「蓮」という人物に会えば何か分かるだろうか。

 それでなくとも彼は小春をよく知る人物だ。

 記憶がないとはいえ、小春も彼と一緒にいる方がいいかもしれない。

 その気になれば、いつでも連絡を取れる。
 小春のスマホを借りてコンタクトを取ればいいだけだ。

 しかし、至は意図的にそれを避けていた。

 少なくとも小春と関係が深いことは確かだけれど、敵か味方か分からないからだ。

 記憶を失って何事にも怯えてしまう小春を、無情にも突き出すことはできない。

 きっと、それは彼にとっても酷なはずだ。

「小春ちゃん、ちょっと出かけようか」

 ────光学迷彩の結界に入り、廃屋をあとにする。

 ひとまず名花高校へ向かってみようか、なんて考えながら小春と歩いた。

「どこかでばったり会えないかなー。蓮くんとやらに」

 至は願望を込めつつ投げやりに呟く。
 道すがら、奇妙な4人組に遭遇した。

 冬真と律、人質に取られたうらら。そして、のそりと起き上がったのは陽斗の遺体だ。

 小春は思わず「ひ……っ」と小さく悲鳴を上げる。
 明らかに彼は生きていない。

 至は「しっ」と制して光学迷彩の結界を出ると、悠々と彼らの方へ歩み寄る。

「……うわ、驚いたな。まさにゾンビ?」

 臆することなく、そう声をかけた。

「その制服は……月ノ池か?」

「おお、正解。きみたちは……みんなばらばらみたいだね。魔術師同士のお仲間さんといったところかな」

「仲間じゃない」

「えー、そうなの? 別に警戒しなくていいよ。きみらをどうこうしようってわけじゃないから。ここで見たことは他言しないし」

「……信用できないな、忘れてもらわない限り」

 踏み出した律が、一気に距離を詰めてくる。

 不意をつく行動だったものの、それは至の方が得意だった。

「!」