ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 おおよそこの状況に似つかわしくない、暢気な声がした。
 ぴた、と彼の手が止まる。

「俺も混ぜてよ」

 長身の男子高校生────至が、微笑をたたえながらこちらを見上げているのが、街灯の光に照らされて見えた。

「何だよ、おまえ……」

「んー? 魔術師だよ」

「なに……」

「きみだって威勢(いせい)のいい奴と戦った方が楽しいでしょ? 俺が相手になるから降りてきてよ」

 彼はすっかり至のペースに飲まれていた。
 小春と至を見比べてから、思い出したように虚勢(きょせい)を張る。

「はは、確かに。仕掛けたからには逃げんなよ」

「ご心配なくー。すぐに済ませてあげる」

 空を駆け下りて着地した彼は、一瞬にして至に詰めた。
 彼は逃げも隠れもせず、その場から動かない。

 これでは勝負ありだ。
 彼の手が至の身体を貫いて終わり────そう思ったのに。

「はい、俺の勝ち」

 予想とは裏腹に、倒れたのは詰めた彼の方だった。

「な、にを……」

 額に触れられて眠りに落ちた彼はどさりとその場に崩れ落ちる。

 その様子を冷ややかに見下ろした至は、それから小春を見上げる。

「ねぇ、きみ。ちょっと目閉じてて」

 小春は何も考えられず、ただ言われた通りにした。

 ガン! と、鉄のようなものに硬い何かがぶつかる音がしたかと思うと、ぐちゃ、と潰れるような音が続いた。

 びくりと肩を揺らした小春は、全身が粟立(あわだ)つのを自覚する。

 彼が何をしたのか、はっきりと分かったわけではなかった。

 それでも、いい予感はしない。
 残酷な想像が容易にできてしまう。

「はい、おしまい。降りてきていいよ。汚い血が広がってるから足元に気をつけて」

「…………」

 彼のことは、信用していいのだろうか。

 そんな小春の心情を悟り、安心させるように柔らかい笑みを向ける。

「大丈夫だよ、俺はきみを傷つけない」

 どのみち、その言葉を信じる以外に選択肢はなかった。
 小春はおずおずと地面に着地する。

「……っ」

 青白い街灯に照らされ、血の海がてらてらと不気味に光っている。

 先ほどの彼は見るも無惨な姿で息絶えていた。
 ブランコを囲む柵に打ちつけられた頭部は、原型も留めないほど潰れている。

 思わず顔を引きつらせながら背けた。

「場所変えよっか。歩きながら話そう」

 少し間を空けて夜道を歩き、小春を振り返った。

「きみの名前は?」

「……それが、分からなくて」

 至の微笑が初めて途切れた。
 きょとんと不思議そうな顔で首を傾げる。

「分かんない、って?」

「覚えてないんです……何も」