ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 ファミレスで時間を潰しつつ、23時を回る頃には店を出て近くの公園へと向かう。

 ロック画面を確かめてみると、蓮からのメッセージや不在着信の通知が溜まっていた。

【大丈夫か?】

【いまどこにいる?】

 心から案じてくれる言葉の数々に、ぎゅう、と胸が締めつけられる思いがした。

 自分がこれからしようとしていることは、蓮を裏切るも同然の行為だ。

 “守る”と言ってくれたその言葉を、信じていないと言っているに等しいかもしれない。

「ごめん、蓮……」

 強くスマホを握り締める。

(ちがうんだ……)

 彼のことは誰より信じている。
 いつだってそばにいてくれて、大切に思ってくれていて。

(だけど、これはわたしなりのけじめなの。わたしも戦わなきゃいけない)

 スマホをスリープした。
 それからの約1時間は、一瞬のようにも永遠のようにも感じられた。

 ────23時59分。

 小春はウィザードゲームのアプリを立ち上げると、意を決してガチャを回した。

【オメデトウ!
キミには“光魔法”を授けるよ〜】

 とさ、と砂の上にスマホを取り落とす。
 画面の光が夜の闇を切り裂く。

【あなたの“記憶(20年分)”を消費しました。
ガチャは23時59分に再度回せるようになります】

 心臓が騒ぐ。呼吸が震える。
 小春は恐る恐るベンチから立ち上がり、怯えたように周囲を見回した。

「……?」

 ここはどこだろう。
 どうして、こんなところにいるのだろう。

(わたし、は……?)

 唐突に世界がひっくり返ったかのようだった。

 右も左も分からないまま、闇夜に放り出された混乱に明け暮れる。

 けれど、不思議と異能のことは身体が覚えていた。

 ゆっくりと手をもたげると、ぽうっと淡い光が(とも)る。
 あたりを照らしてみると、ふいに人影が浮かび上がった。

「……ん? おまえ、もしかして魔術師?」

 ぱっと思わず光を消すものの、彼は歩みを止めずに迫ってくる。

「いいじゃん。付き合ってよ、退屈しのぎに」

 何か言うより先に、目にも止まらぬ俊敏な動きで力強い蹴りが繰り出された。

 小春は反射的に、自分の身を庇うように腕で覆った。
 そのつま先が左腕を掠め、鈍い痛みが走る。

「痛……っ!」

 その隙に身体を貫くべく勢いよく手が突き出された。
 とっさに身を屈めるも、その指の先が容赦なく左肩に突き刺さる。

 小春は声にならない悲鳴を上げ、肩を押さえる。どく、と血があふれた。

(何、なの……!?)

 まるでわけが分からなかった。
 けれど、このままでは殺される。それだけは本能的に分かる。

 慌てて地面を蹴ると浮かび上がり、宙へ逃げ込んだ。

「へぇ、空中戦。いいね」

 しかし、彼も同じようにして空中に上がってきた。
 彼の方は浮かぶというより、駆けるといった方が正しい。

 そのまま空を蹴って一気に距離を詰められた。
 彼は再び手を構える。

(殺される……!)

 最悪を覚悟して思わず目を瞑ったときだった。

「あれー? 何か楽しそうなことしてるね」