その先に言葉が続かない様子を見かね、大雅が彼女の前に歩み出る。
「小春。いまから、おまえの記憶をすべて取り戻してやる。とりあえず、それでいいか?」
「…………」
ややあって、彼女は小さく頷く。
ゆらゆらと不安定な双眸を見つめると、大雅の頭の中に映像が流れ込んできた。
その内容に戸惑うより先に、顳顬に指を当てながらもう一方の手で彼女に触れる。
「……っ」
小春は目を見張る。
走馬灯が駆け巡るように記憶のフィルムが連なると同時に、あらゆる認識が浸透していく────。
ずき、と頭痛がして視界が揺れるも、ほどなくしておさまっていった。
「思い、出したか?」
遠慮がちに蓮に尋ねられ、ふいに胸が詰まった。
つい泣きそうになりながら頷く。
「……ぜんぶ、思い出した……」
それを聞いた蓮は、深く息をついた。噛み締めるように目を閉じる。
「……よかった。本当に」
奏汰も安堵し、瑠奈は破顔した。
これでやっと、本当の意味での再会を果たせた。
「どうする?」
大雅は小春に尋ねる。
「俺が読み取った記憶を全員に転送して共有することもできるけど。それとも、自分で説明するか?」
少し間を置いて、こくりと頷いた。
「何があったのか、ちゃんとわたしの口からみんなに伝える」
そうすることが、突然いなくなった自分をずっと案じてくれていた仲間たちへの誠意だろう。
一度口をつぐんだ小春は、それから滔々と語り出す────。
◆
「水無瀬さん」
けたたましい音を響かせる踏切を渡ろうとしたとき、ふいに呼びかけられた。
振り返ると、そこには雪乃がいた。
「こっち、わたしについて来てください……っ」
どこか切羽詰まったような彼女は、小春の返答を待たずして手を引きながら駆け出す。
「え……」
振りほどけないほどではないものの、その力は強く、何だかただならぬ予感を感じさせた。
下道に入ると、雪乃はやっと足を止める。
「え、と……雪乃ちゃん、だよね。急にどうしたの?」
呼吸を整えつつ窺うと、彼女は振り向きざまにスマホを掲げた。
映っていたのは例の動画だ。
「な、なに……これ……!?」
「あたし、時間逆行の魔術師なんです」
「えっ?」
「これは、つい2分前の出来事……。あのままあそこにいたら、水無瀬さんは殺されてた」
信じられないながらも小春は青ざめ、恐怖から身を震わせた。
すぐそこまで死の気配が迫ってきていた。いや、実際追いつかれていた。
彼女が救ってくれたのだ。
「ありがとう……。本当にありがとう」
思わずその手を取った小春は、ぎゅ、と握る。
まさしく命の恩人だった。
いくら感謝しても足りない。
「い、いえ……! とんでもない!」
雪乃はうろたえる。
同じように触れてもいいものか、慌てているうちに小春の手は離れた。
(蓮のことは瞬間移動させてた……)
厳しい面持ちで眉を寄せる。
理由はともかく、祈祷師の狙いは自分だった可能性が高い。けれど。



