「何や……、どないなってんねん。あんたが説明してや。何でここにおんねん。向井の奴が死ぬほど心配して捜しとるのに連絡もせんと……」

 ゆらゆらと瞳が揺れる。蓮の名を出しても、小春の様子は変わらなかった。

 本当に、何がどうなっているのだろう。

「あんた、水無瀬小春……やんな?」

 確かめるように尋ねると、小春は「水無瀬、小春……」と自分の名を復唱した。

 まるで初めて耳にしたかのような反応だ。

「なぁ、まさかあたしのこと覚えてへん? 仲間やったやんか!」

「ごめんなさい。何の話か、全然……」

 小春は困り果てたように眉を下げた。

 アリスは思わずたたらを踏む。

「な、何があったんや……? あんたが消えてから、何が────」

「……う、ん……」

 不意に至が小さく呻き、目を覚ました。

 自身が眠ってしまったことに気付くと、珍しく狼狽した。顔を上げ、アリスを見やる。

「こ、この子とあたしは仲間やった。訳あってあたしは皆の元を離れたけど、それは八雲、あんたの仲間にして欲しいからで……。あれ、それよりあたし何で目覚められたん?」

 再び眠らされることを警戒したアリスは捲し立てるように言ってから不意に首を傾げた。

 しかし至は取り合わず「まずいことになっちゃった」と呟くと、立ち上がって小春に駆け寄る。

 その肩に手を添え、やや屈んで視線を合わせた。

「小春ちゃん、君の名は水無瀬小春。この異能バトルロワイヤルにおける魔術師だ。空を飛べる魔法と、それから────“光魔法”の持ち主」

 いつになく真剣な調子で告げる。加えてウィザードゲームの概要についても軽く説明しておく。

 アリスは瞠目した。透明化ではなく、光魔法……?

 否、それよりも、二つの魔法を有している?

「俺は八雲至。対象を眠らせる魔法を扱う魔術師。そしてこっちは有栖川美兎……身体の大きさを自在に操れる魔術師。けど、彼女のことは現状信用出来ないから、今は人質みたいなもんかな」

 至は臆せず、はっきりとアリスに関する評価を述べた。

 アリスは目の前のやり取りに圧倒され、自分の扱いについて文句を言うことも忘れていた。

「あともう一人、三葉日菜って子がいるけど、彼女はカモフラージュのために毎日学校に通ってる。だから日中は、基本的にここへは来ない」

 小春の視線が揺れる。混乱が一周し、逆に冷静に至の話を受け止められた。理解出来るか否かは別として。

 アリスも困惑しながら二人を見比べた。何なのだろう。どういうことなのだろう。何故、わざわざそんな説明を────?

「戸惑うと思うけど、今はゆっくり説明してる時間がない。急いで行かなきゃいけないところがある。君の力を貸してくれ」