そこまで聞き及んでいるとは、アリスは本当に洗いざらいぶちまけたようだ。
「でも、そう主張する筆頭の水無瀬が八雲を殺したんやけどな」
「え……?」
「小春、嘘だよな……?」
信じられない、と言いたげなそれぞれの視線を浴びた小春は黙って俯いた。
是とも否とも示せなかったのは、冬真の命令のせいではない。
どんな事情があったにしても、そうしようとしたことは事実だ。
彼女は黙って涙を流した。
「次はきみたちの番だよ」
冬真が手をもたげると、ふいに轟いた地響きとともに足元が揺らぐ。
落ち葉に覆われていた草が突如として絡み合うように伸び、木々は化け物の手のように枝を広げた。
「あの蔦もおまえの仕業だったか」
「その人の異能ってことだよね……?」
横たわっている男子生徒の遺体、その関節はあらぬ方向に曲がっていた。
大方、高所から落下でもさせたのだろう。吐き気がする。
そのうち、伸びてきた草木に包囲された。
壁のように四方を囲まれて逃げ場を失う。
切り抜けるには、冬真とアリスのふたりを倒しきるか、草木の壁を破って完全に撒くしかない。
とはいえ、至が死んでしまった以上、悔しいけれど“何もできない”という冬真の言葉は正しい。
つまり、自ずと選択肢は後者に限られる。
「さあ、みんな死んじゃえ」
おもむろに冬真が人差し指と中指を薙ぎ払った。
無数の刃のような葉が宙に現れる。
鋭い切っ先がこちらに向いたかと思うと、勢いよく迫ってくる。
「……!」
紅が指を鳴らした。────時が止まる。
冬真とアリスを除いたそれぞれに触れると、静止していた彼らがはたと動き出した。
「うわ、危ね」
蓮はすぐ目前に迫ってきていた葉に怯んであとずさる。
あと一秒でも遅ければ、身体中が切り刻まれていたことだろう。
「急いで逃げるぞ」
冷静沈着な紅が促した。
蓮が手をかざすと、てのひらから球形の火炎が放たれる。
行く手を塞いでいた草木の壁を燃やして穴を開け、逃げ道を作り出す。
瑠奈が率先して飛び出すと、大雅や律もあとに続いた。
「……っ」
小春は思わず倒れている至に駆け寄り、縋るように蓮を見上げる。
彼女の言わんとすることは分かったものの、苦しげな表情で首を横に振った。
動けない彼を運ぶ余裕はさすがにない。
「…………」
小春は痛ましげに再び涙をこぼす。
どれだけ心が苦しくても、無理を通せる状況ではなく、蓮に腕を引かれるがままに走り抜けた。



