いつの間にか、窓から朝日が射し込んでいた。宙を漂う埃に反射し、光の粒が舞っているようだった。

 気付かないうちに眠りに落ちていた小春は、はっと目覚め、ソファーから起き上がる。

 見慣れない風景に戸惑った。ここは何処だろう。

「……!」

 向かい側の壁にもたれ掛かるようにして座っている男子高校生が目に入った。

 俯くようにして目を閉じている。

「あの……」

 思わず駆け寄り声をかけた。

 眠っている彼を起こそうと揺するが、完全に意識がなかった。目覚める気配もない。

 ────至が眠ったのは、“三十分以内”の出来事だった。

 小春は戸惑い、困惑した。恐らく彼ならば事情を知っているだろうに、これでは何も聞けない。

 ……どうすればいいのだろう。何も分からない。

(怖い……)

 猛烈に襲いかかる恐怖と孤独感に、手足の先が冷えた。小刻みに震えてしまう。

 自分が誰なのか、ここが何処なのか、彼が何者なのか────何一つとして分からない。

 そのとき、カタン、と物音がした。

「あれ……? あたし……」

 部屋の片隅で眠っていたアリスが目覚める。

 長い悪夢にうなされ衰弱しているのが幸いで、彼女は特に攻撃を仕掛けてはこなかった。

「八雲に眠らされてたんか? 何で急に目が覚めて……」

 人の気配に気付いたアリスは顔を上げた。小春と目が合う。

「あの、大丈夫……?」

「あ、あんた……! 何でここにおんの!?」

 思わず案じた小春に、アリスは驚愕して勢いよく立ち上がった。

 あれほど蓮たちが必死で捜していた小春が、何故こんなところにいるのだ。てっきりもう死んだものだとばかり思っていた。

 一方の小春はただただ首を傾げていた。

 アリスは咄嗟に「ああ……」と取り繕い、彼女の問いかけに頷く。

 小春の眼差しは苦手だ。広く澄み渡って、こちらの邪心を責められているようで。

「八雲至……。ある意味、あたしの天敵やな」

 アリスは青白い顔で呟いた。

「どういう……?」

「あたしはな、眠ると必ず悪夢を見るんだ。ガチャの代償が“良い夢”だったから」

「えっと、よく分かんないけど……あの彼が八雲至くん? で、あなたを眠らせた、ってこと?」

 不思議そうな顔をする小春だが、それよりもさらに意味が分からなかったのはアリスの方だった。

 小春はいったい何を言っているのだ。

「あたしが最初にここを訪ねたとき、八雲が警戒してあたしを眠らせたとこ、あんたも見とったやろ? 確かに影があった。すぐそばにおったやん」

 アリスの言葉に小春はさらに戸惑いを顕にした。混乱を極める。まったくもって理解不能だった。

 アリスも困惑してしまう。何なのだろう、この違和感は────。