────そのとき、落ち葉を踏み締める複数の足音が響いてきた。
蓮たちはそれぞれ、囚われている小春と血まみれで横たわる至を目の当たりにはっと息をのむ。
「小春、無事か! 至、は……」
「うそ……」
彼が息をしていないのは、傍目にも明らかだった。
手遅れだったようだ。
思わず瑠奈は両手で口元を覆う。
「来た来た」
「何や、何か新顔がおるな」
アリスは紅の姿を認め、腕を組んだ。
見覚えはなく、少なくとも自分も把握していない魔術師だ。
「冬真……」
大雅は眉をひそめ、奥歯を噛み締めた。
「アリス、おまえも無事だったんだな……」
「無事も何もあらへんし。あんたらの頭の中にも花咲いてるんか?」
いまさら嘘をついたり演技をしたりしてしらを切り通す気なんて、アリスにはなかった。
吐き捨てるように笑う。
「裏切り者────ってわけだな」
平板な声で紅が言う。
それぞれの胸の内で、怒りなり失望なり軽蔑なり、濁流のような感情が湧いた。
おもむろに踏み出した蓮は彼らのもとへ駆けていく。
「ちょ……っ」
瑠奈が思わず声を上げる。
アリスに掴みかかろうとしているのではないかと思ったけれど、そうではなかった。
「大丈夫か。何があった?」
小春に駆け寄って、その蔦に触れる。
彼が誰なのかは分からなかったものの、ふいに今朝の至の言葉が蘇ってきた。
『……それと、向井蓮くんって子が火炎の魔術師。彼は小春ちゃんのことをすごーく大事に思ってくれてるみたいだよ。たぶん会ったらすぐに分かると思う』
その通りだった。彼が蓮だ。
なぜかほっとしながら、口を開きかけたときだった。
「何も言うな。ひとことでも声を発したら、きみのことまで殺しちゃうよ」
「……っ」
冬真がナイフの切っ先を小春に向けた。
けれど、声が詰まったのは決してそんな脅しに怯んだからではない。
それなのに、何か言おうとしても声が出なかった。
「……絶対服従させられてる」
大雅が呟く。
記憶のない彼女は、冬真の異能のことも当然知らなかったのだろう。
「……くそ」
蓮は毒づき、手に炎を宿したまま蔦を掴んだ。
燃え移った火が蔦を焼き、たちまち灰になる。
植物ではあるものの、どうやら手でほどいたり切ったりすることはできないようだ。
そうしようとすると、まるで意思でもあって抵抗するかのようにさらに締めつけてくる。
「火炎魔法か。ということは、きみが向井蓮だ」
冬真は興がるように蓮を見やった。
それらの情報は当然アリスから仕入れている。
穏やかに微笑んでみせると、今度は大雅と律に向き直った。
「ふたりとも、戻ってきてくれて嬉しいよ」
歓迎する、とでも言わんばかりに両手を広げた。
昨日殺そうとしていたとは思えないくらい清々しい表情だ。
「……ふざけんな」
大雅は低い声で返した。律も無言で鋭く見返す。
冬真に怯んだ様子はなく、ただただ余裕の笑みをたたえていた。
「おい。小春や至に何したんだよ」
「何って、見ての通りだけど? これで睡眠魔法の脅威も消えた。魔術師を殺せないきみたちに、僕をどうこうする手段はない」



