ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 少しの間黙り込んだ冬真は、真剣に吟味(ぎんみ)しているように見えた。

「……そっか、どうやら誤解があったみたいだね。……分かった。じゃあ、きみのこと解放してあげるよ。彼を連れてって、回復してもらってきなよ」

「ほんと────」

 信じられないような気持ちで小春が顔を上げると、ひゅん、と何かが頬を掠めた。

 鋭い(やいば)のような葉だった。

 小春の頬に真一文字の傷口が浮かび上がって、つと血が滴る。

「なんて言うわけないでしょ、ばーか」

 冬真の顔に冷酷な微笑がたたえられる。

 笑っているのに、そこに含まれているのは嘲りや(さげす)みといった苦々しい感情だけだった。

「守りたい? 寝言は寝て言いなよ。こいつひとり守れてないじゃん。人質になる? 当然でしょ。言われなくてもそうするよ。こいつが死んだあと、きみは仲間をおびき寄せるための餌になるんだよ!」

 死体の、もとい冬真の高笑いが響き渡る。

 その声が脳を直接揺らすように、がんがんと頭の中で反響する。

 小春はわなないた。震えた。言葉も出ない。
 どうしようもなく腹が立つ。悔しいし、悲しい。

「小春ちゃん……。足、どけて」

 肩を震わせる小春に、至は言った。

「……やだ」

「大丈夫だから。……それと、屈んで」

「…………」

 きつく唇を噛み締めながらも、彼の言葉を信じて言う通りにした。
 至がナイフを掴んだのを見てそろりと屈む。

「よく聞いて……。俺はもう、助からない」

「!」

「でも、その前に……俺が息絶えるより先に、きみが俺を殺してくれ」

 衝撃と動揺は、先ほどの比ではなかった。

「え……!?」

「それが唯一、いまの俺たちに取れる最善策。このナイフで、その蔦を断つ。……そしたらすぐに、きみが異能で俺を殺せ」

 至はいつになく真剣だった。

 最初で最後の機会だ。
 ここで死ぬのなら、それは小春の手による以外にありえない。

「……そん、な……っ!」

「できなくてもやるんだ、小春ちゃん。そして、俺の異能を……きみが引き継いでくれ」

 できる、できない、なんて次元の話ではもはやない。

 やるしかないのだ。
 彼の異能を易々(やすやす)と失うわけにはいかない。

 小春は涙をこぼした。

 至の意図は理解できたし、自分のするべきことも分かっている。

 一瞬もためらってはいけない。
 蔦がほどけた瞬間、すぐに殺さなくてはならない。

 そうでなければこの唯一の希望、刹那(せつな)の隙も(つい)えてしまう。

 至はただ、意思の強い瞳で託すように見つめていた。

「……っ」

 小春は泣きながら、そして震えながら頷いた。

 この状況では、理想なんて何の役にも立たない。

 躊躇(ちゅうちょ)すれば至の覚悟と思いを無駄にしてしまう。

 彼は一瞬、安堵したように表情を緩め、それからすぐに引き締める。

「いくよ……?」

 ナイフを握り直す。
 小春が頷いたのを見て、彼女を捕らえていた蔦を一気に裂いた。はらはらと落ちる。

「な……」

 思わぬ至の行動にアリスは動揺した。

「やれ! 小春!」