(やばいなぁ……)
うまく働かない頭で考えていた。
冬真は傀儡魔法の持ち主だと聞いていたのに、これは何なのだろう。
この────植物は。
至はいまにも飛びそうな意識を、必死で保ち続けていた。
激しい痛みを気力でねじ伏せる。
まだ、死ぬわけにはいかない。
もう少しだけ耐えなくては。
「いつから……裏切ってたの?」
小春は怒りとも悲しみとも言えない強い感情を覚えながらアリスに尋ねた。
「んー、もともとあたしは如月のことを知ってた。何てったって情報屋やからな。実際に会うタイミングはなかったけど、メッセージでやり取りしてたんよな」
「ま、でも実際に手を組んだのはさっきだよ。きみたちの拠点や異能、いろんな事情について、彼女はすべて教えてくれた」
冬真はスマホを掲げてみせた。
画面にはアリスとのトーク画面が開かれている。
確かにアリスはここのところ、逐一冬真に動きを伝えていたようだった。
「何でなの? どうして至くんを────」
「僕、思うんだよね。僕が最強の“神”でいるためには、僕より強い奴が存在してちゃいけないって。だって、そうじゃなきゃ最強って言えないでしょ?」
冬真は両手を広げ、首を傾げた。
芝居がかったわざとらしい動作だ。
「八雲至、きみは確かに強い。一度は僕も負けた。でも、あんなの単なる初見殺しに過ぎないよね」
冬真は口端を持ち上げる。
「どうせきみたち、また僕を眠らせようと画策してるんでしょ? だからその前に殺しちゃおうと思ってさ」
機先を制することに成功したからか、上機嫌なものだった。
「12月4日まで……そろそろ1週間か? もうあんまり悠長にやってられないからさ、駒も選別してかなきゃ。どうせ最後には僕以外死ぬんだし」
「…………」
愉悦に浸る冬真に、アリスは鋭い眼差しを寄越すも気づかない。
「それで、魔術師殺しを始めたんだ……? “駒にするために殺さない”って聞いてたのに……妙だと思った。その“植物魔法”、彼から奪ったわけか……」
倒れてこと切れている男子生徒に目をやりながら、至は途切れそうになる呼吸の狭間で言った。
小春を捉えている蔦も、至を貫いた樹枝も、もとは彼の保有していた異能なのだろう。
「その通り。駒は有効に使わせてもらうよ」
至は理解した。
冬真の言う“駒”にあたる魔術師たちのことは、異能で殺害したあとに彼が能力を奪う。
一方、冬真を凌ぐ魔術師たちは、物理攻撃で抹消する。
冬真本人がその強力な異能を奪わないのは、そういった強力な異能に付き物である大きな反動が、デメリットでしかないからだろう。
最終的には傀儡魔法さえあればどうとでもなるように、つまり、傀儡魔法を最強に位置づけるために、太刀打ちできないような異能はさっさと天界に還してしまおうという魂胆なのだ。
「やっぱり……きみたちのことは、眠らせておかなきゃならなかった」



