午前中、眠りに落ちている瑚太郎を除いて、昨日と同じ面々が廃トンネルに集った。

「いいか、蓮。確かに俺は小春の記憶を取り戻せる。でもな、たぶん思い通りにはならない。失うたびにすべてを取り戻すことはできるけど、記憶がなくならないようにするってのは無理だから」

 すべての記憶を取り戻しても、明日になればまた何もかもを忘れてしまうと思われた。

 記憶の回復は、今日限りかもしれない。

「……それでもいい。つか、それでもやってもらうしかねぇよ」

 蓮は存外(ぞんがい)すんなりと、大雅の示した無慈悲な可能性を受け入れた。

「小春の身に何があったのか……。まだ残ってる謎を、小春にしか分からないことを、あいつの言葉で聞きたい」

「……分かった」

 大雅は静かに頷くと、そっと顳顬に指を添えた。

「小春、聞こえるか。俺は桐生大雅。至から聞いてるかもしんないけど、蓮たちの仲間だ。いま、テレパシーでおまえに話してる。顳顬に触れればおまえの言葉も俺に届くぞ」

 少し間があった。
 ほんのわずかな時間だったけれど、永遠のように感じられた。

『……大雅くん?』

 探るような、窺うような、あるいは(すが)るような、細く小さな声が返ってきた。

「ああ、そうだ。聞こえるぞ。なあ、いまからどっかで会えねぇか? 俺がおまえの記憶を取り戻────」

『助けて』

「……え?」

『至くんが……っ』

「小春? おい!」

 それ以降はいくら呼びかけても、声が返ってくることはなかった。

「どうしたんだよ?」

「何か、様子がおかしい。“助けて”って」

 そう言うと、蓮が血相(けっそう)を変えた。

 考えもなしに飛び出していこうとする彼を、奏汰が引き止める。

「蓮、待った。せめて何があったのか聞いてから」

「至がどう、とか言ってたから、至の身に何かあったのかも」

 彼らはいまどこにいて、どんな目に遭っているのだろう。
 不安感が波のように押し寄せ、焦りが生じる。

「日菜、無事か? おまえらの拠点教えてくれねぇか」

 大雅はすぐさま日菜とテレパシーを繋いだ。

『無事、ですが……。えっと、わたしたちの拠点は────』

 至たちの身に何かが起きているらしいことは、彼女も知らなかった。
 今日も登校しているようで、難を逃れたと見えた。

「どうする」

「どうもこうも、行くしかねぇだろ」

 小春の安全も(おびや)かされているかもしれないのだ。

 彼らの居場所は分からないものの、ひとまずその拠点へ行ってみるしかないだろう。

「罠かもしんない」

 大雅が硬い声で言うと、蓮は眉をひそめた。

「何で小春が罠なんて────」

「小春じゃなくて別の誰かが、誘い込もうとしてる可能性はあるだろ」

 この中の誰か、もしくは全員を。
 
「……琴音のときはどうだった? うららが悪気なくその罠に加担してただろ。今回もそのパターンかもしんねぇ」

 蓮も奏汰も神妙な顔つきになった。

 特に蓮はあの日、琴音と直前まで一緒にいただけに深く染みる。