ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 驚いたように()されてしまう。

 けれど、それなら何となく分かったような気がする。
 3秒間目を合わせたとき、彼が何を読み取っているのか。

 名前や素性、保有する異能に至るまで、大雅は相手の“記憶”から読み取っていたわけだ。

「実はな、俺の代償も記憶だったんだよ」

「そうなの……!?」

「ああ。俺の場合は“4年分の記憶”だった。直近4年間の記憶を失って、当たり前だけどゲームのことも忘れた」

 現状に混乱する中、偶然にも目が合ったのだ────鏡に映る自分自身と。

「そうやって、失った記憶を自分の能力で取り戻した。鏡の中の俺自身から転送したんだ」

 つまり、記憶というのは失っても完全に消えるわけではない。

 頭の奥底に眠っていて、単に思い出せないだけなのだ。

「俺の場合は、引いた異能に恵まれてたな。お陰で代償も相殺(そうさい)できた」

「……そういうからくりか」

 律は納得したように呟く。

 彼の記憶を操作しても、しつこいくらいに取り戻せていたのは、こういうことだったのだ。

 先ほどもそうだ。
 唐突に記憶を取り戻したのは、鏡の破片のお陰だったのだろう。
 もとからそのために持っていたわけだ。

 確かに、テレパシー魔法でなければなし得ない技だった。

 そういう意味では、律と大雅の異能も天敵という関係性かもしれない。

 思わず踏み出した蓮は、その勢いのまま大雅の両肩を掴んだ。

「頼む。小春と会って、記憶を転送してくれ。あいつの記憶を取り戻してやってくれ」

「おう、当然そうするつもりだ。……けど、また明日な。今日は小春も疲れてるだろうし、俺たちにも色々ありすぎた」

 たとえば人物相関図が存在するのなら、それが大きく動いたことだろう。

 小春に関する大方の謎や秘密も明かされて、あとは答え合わせを残すのみとなった。

 頭の中を整理したいし、紅たちとももう少し情報を共有しておきたい。
 今日のところは、焦る必要なんてない。

「……ありがとう」

 噛み締めるように告げた蓮に、大雅は頷く。

 その切実な想いは、テレパシーなんて使わなくともひしひしと伝わってくる。

「ああ、大丈夫だ」

 ────実のところ昨晩から、小春とのテレパシーに変化が見られている。

 ノイズ混じりではあるものの、時折、意識を繋ぐことができていた。

 それは、彼女の記憶を巡る希望と言えるだろう。