ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


「これ以上、誰が何を言っても如月の性根(しょうね)は変わらない。協力は無理だ。煽るほどにむしろ、運営側に肩入れするだろう。今後も桐生や佐伯は命を狙われ続けるはずだ」

 大雅と奏汰、それぞれを一瞥(いちべつ)する。

「さらには目的の対立から、徹底的に邪魔してくるだろう。運営側を倒したいなら、如月のことも倒さないと難しいかもしれない」

 重々しい沈黙が落ちた。
 その異能からしても、冬真を倒すのはかなり難儀な話だ。

「至にもっかい眠らせてもらえば?」

 大雅が言った。

 既に瑚太郎を眠らせてはいるものの、まだあとひとりくらいなら余裕があるはずだ。

 そう暢気に構えていられるほどはないだろうけれど、一時しのぎにはなる。

「透明化できる“影の魔術師”もいるし、消音魔法のうららもいるし、奇襲も簡単だ」

 “影の魔術師”の正体を知った蓮は、その言葉に思わず顔を曇らせた。

 再会できたのは何よりだけれど、思っていたより遥かに残酷な形だった。

「実はそれは透明化じゃなくて、光魔法による光学迷彩だったんだ。その“影の魔術師”だけど……正体はやっぱり小春ちゃんだった」

 奏汰の言葉に、大雅だけでなく瑠奈も目を見張った。

「小春、見つかったんだな」

「よかった……! 無事だったんだ」

 顔を綻ばせて喜んだものの、肝心の蓮の表情は晴れなかった。

「小春ちゃんは代償で記憶を失ってた。それだけじゃなく、今後3年間は毎日眠るたびに記憶がリセットされる」

 黙り込む蓮に代わって、奏汰が説明した。
 瑠奈は泣きそうな表情で眉根に力を込める。

「そんな……。あんまりだよ」

「おまえは記憶を操る魔術師だろう? 何とかできないのか」

 紅が律に尋ねた。
 小春を思ってというより、単に疑問をぶつけただけのようだ。

「俺は記憶の消去と改竄(かいざん)しかできない。消したり書き換えたりはできても、取り戻すことは不可能だ」

「そっか……」

 正直なところ律の異能に期待していたところがあった蓮は落胆しつつ呟く。

 もしかすると記憶操作魔法のそのような制約は、代償によって失った記憶を取り戻させないようにするためなのかもしれない。

「────いや、できる」

 おもむろに大雅は断言した。

「失った小春の記憶、取り戻せるぞ。俺なら」

 たぶん、や、かもしれない、なんて曖昧な言い方はしなかった。
 はっきり“できる”と言いきった。堂々たる態度で。

「どうやって……」

「俺の異能は知っての通りテレパシーだ。俺と意識を繋いでおけば、頭の中で互いに思念(しねん)を送り合える。それが基本だけど、それだけじゃねぇ」

 すっ、と大雅は自身の顳顬を指し示した。

「────思考や()()も転送できるんだ」