「さあ、これで隠しごとはなしかな。次はきみたちのこと教えてよ」
至は蓮たちに向き直った。
「狐くんに狙われてるのは分かったけど、あの星ヶ丘の彼は何で? 何か彼からは執念を感じたけど……。あのとき彼に殺されかけてた大雅くんは、いまどこにいるの? 無事なの?」
「大雅はいま、そいつのとこにいる」
────冬真の存在や大雅の置かれている状況を、洗いざらい伝える。
「ふーん、なるほど。たちの悪い魔術師がいたもんだね」
「あれ以降、連絡ないよな。あいつ、大丈夫かよ……」
「わたしさっき会いましたよ、桐生くんと。そのときは無事を確認できましたけど、いまはどうなのでしょうか」
日菜が憂うように眉を下げる。
不安気なそれぞれの表情を眺めつつ、おもむろに至は立ち上がった。
「一応、俺たちとは同盟って形で認識しておいて。いまの俺たちの明確な敵は、冬真くんと狐くんたち運営側ってことかな」
ただし、後者はルールに違反さえしていなければニュートラルなはずだ。
「ああ。それと、もうひとつ俺たちと同盟組んでる奴らがいる。日菜から軽く聞いてるよな?」
蓮は紗夜とうららについても伝えておく。
彼女たちも同志だ。
「うららの方が結城依織っていう元魔術師に恨まれててさ。うららの仲間っつーことで、大雅が襲われたことがある。そういう意味では依織も俺たちの敵だ」
「大雅くん大変だな……。ま、心得たよ」
肩をすくめた至はさらに続けた。
「みんなが違反したっていうルールが何なのか分かったらまた教えて。それと、瑚太郎くんだけど、彼はひとまずこのまま眠らせておこうか。豹変されると困るからね」
いずれ起こさなければならない、あるいは起きてしまうことになるのだけれど、これでしばらくはヨルを閉じ込めておける。
ふと奏汰は彼を見やり、目を伏せた。
「いままでは夜にしか現れなかった裏人格が日中にも出現した……。これって、もしかして早坂くんの人格が侵食されつつあるってことなのかな」
日中の人格交代は、瑚太郎にとってもかなり稀なことだった。
これまでは何とかヨルを押さえ込んでいたものの、今回それを許してしまったことで、ヨルによる乗っ取りのハードルが下がったかもしれない。
「最終的には完全に裏の人格になってしまうということですか? そんな……」
「んー。でも、悲観しても俺たちにはどうすることもできないからね。ただ、異能の代償でこうなったわけじゃないなら、瑚太郎くんが頑張れば“彼”を封じ込められる可能性はあるんじゃない? 分かんないけど」
ドライなのか楽観的なのか、至は希望を口にした。
「じゃ、俺たちは一旦アジトに帰るよ。ひとまずは小春ちゃんもこっちが引き取る」
「何でだよ。何でおまえが────」
「だってさ……見たところ、きみかなり熱いじゃない? いろんな意味で。小春ちゃんとも関係が深い」
だから何だと言うのだろう。
強気に見返した蓮に、至も視線を返す。
「だから、きっと────耐えられないよ。何度も何度も、自分を忘れられることに」
「……!」
「それで生まれたやるせない気持ちや焦りを、小春ちゃんにぶつけちゃったらどうすんの? 彼女を追い詰めることになるんだよ」
蓮は言い返せなかった。
情けないけれど、そうしないとは言いきれない。
ぎゅ、と両手を握り締めながら俯き、ややあって顔を上げる。
「……なら、おまえ。俺の代わりに死ぬ気で小春のこと守れよ。何かあったら許さねぇ」



