「でも、雪乃が時間を巻き戻したことで助かった」
「うん。それから小春ちゃんが消えたことに関してなんだけど、その真相は彼女本人にしか分からない。……正確には、記憶を失う前のね」
「…………」
「だから、これは俺の憶測に過ぎないけどさ。たぶんその日、というか深夜に、ガチャを回したんじゃないかな?」
全員が全員、驚いたように目を見張る。
それぞれが思わず窺うように見やったものの、当の小春が誰よりも戸惑っていた。
「ごめん、小春ちゃん。ガチャとか意味分かんないよね。あとでまとめて説明するよ」
ゲームのこともすっかり忘却しているのだ。
その混乱は計り知れないだろう。
「蓮くんたちは彼女の異能知ってる?」
「あれだろ、空飛ぶやつ」
その能力は、小春が自らガチャを回して得たものだと把握している。
代償は5年分の寿命だと言っていた。
「でも、それだけじゃない。彼女はそれに加えて光魔法の持ち主でもある」
「光……?」
「透明化じゃなかったんだ?」
至は頷く。
「そう。透明っていうか……姿を消すことができるのはいわゆる光学迷彩。光を操れるから擬似的に透明化できるってわけ。見えないだけで実体はあるよ。だから影も見える。それから、周囲の温度や湿度なんかが変わるとこの擬似的な透明化も破綻する。そういう仕組み」
姿を消すことができるのは、光魔法の応用だったのだ。
「光魔法の詳細については、俺もすべてを把握してるわけじゃないから、完璧な説明はできない。そのうち分かるんじゃないかな。小春ちゃんが使ってるとこ見てれば」
「そんな雑な……」
「いや、本題はそこじゃないんだよ。俺が言いたいのは────小春ちゃんはガチャを回した。それで光魔法を手に入れた。それと引き換えに記憶を失ったんじゃないか、ってこと」
そう考えれば、小春が消えてから起きた変化にも確かに合点がいく。
「小春ちゃんと初めて会ったとき、ほかの魔術師に襲われてるとこをたまたま俺が助けたんだ。相手のことは殺したよ。でも、異能はいらないから取ってない。睡眠魔法って、ただでさえ身体がしんどいからね。これ以上負荷かけたら、俺死んじゃう」
「そんなことが……」
「そ、あったんだよ。きみたちが小春ちゃんの光魔法を知らないなら、時系列的には彼女が連絡を絶ってから、ってことになるかな。既にそのとき記憶失ってたし」
至はその夜のことを思い出しつつ言った。
「そう考えると、確かに八雲くんの推測は正しそうだね」
「でしょ?」
「そんで、どうやっていまに至ったん?」
「彼女のスマホから身元を割り出して、でも、この状態の小春ちゃんが帰っても色々と大変だし、面倒なことになっちゃうでしょ? だから俺が見っけたアジトに身を置くことになった。あ、蓮くん。安心して、何もしてないから。他意なし! ね?」
「……っは? んだよ、俺は別に何も!」
思わず握り締めていた拳がほどける。
すっかり油断していた。至は何を言い出すのだ。
「でさ、そのとき小春ちゃん怪我してたの。でも俺のアジトは廃屋だから、気の利いたアイテムなんてないわけ。本当に困ったよー」
「そこでわたしの出番です!」
日菜が勢いよく手を挙げた。
「ご存知の通り、わたしは回復魔法を使えるんですが……実は人一倍血のにおいに敏感なんです。というのも、異能の特性のひとつなんですけど。ほんの血液一滴、2キロ離れてても分かります」
「マジかよ。とんでもねぇな」
「これを言ったらもうお察しですかね? あなたたちのお仲間の雨音さんと百合園さん……彼女たちのことも、それで分かりました」
そうしてうららの屋敷へ駆けつけたのだろう。



