「……ねぇ。それで、律くんも“打倒運営”に賛同してくれるの? あたしたちの仲間になるの?」
瑠奈が小首を傾げると、怪訝な面持ちになる。
「仲間? 桐生たちとは別じゃないのか?」
「ううん、同じだよ! あたしたちは小春ちゃんの……あ、えと、大雅くんたちの仲間に加わるから」
「うむ、もとよりそのつもりだ。胡桃沢氏から水無瀬氏とやらの話を聞いてな……。わたしもぜひ協力したい」
願ってもみない申し出だった。
大雅は驚きと喜び混じりに「本当か!」と瞳をひらめかせる。
紅は頷きつつも、懸念するように腕を組んだ。
「だがな、大丈夫か? 旗振り役のその水無瀬氏とやらも消えてしまったのだろう? 統率できているのか? 目的や意思の統一は?」
「まあ……確かに正直なところ、ちょっと道を逸れたりもした」
一度は信念を曲げそうにもなった。
それは結果として、運営側に屈することを意味するというのに。
「でも、何も小春が絶対的なリーダーってわけじゃねぇからな。あいつの言葉とか、運営側を倒したいって目的は、俺たちもみんな同じ。その動機はそれぞれちがってもな。だから大丈夫。もう道を見失うことはねぇ」
大雅の眼差しは強く勇ましいものだった。
もう揺らがない。やるべきことは明確になった。
「……そうか」
今度こそ紅はしっかりと頷いた。
瑠奈は嬉しそうに笑う。
「おまえはどうする?」
大雅が律を窺うと、息をついて目を閉じる。
ウィザードゲーム────そんなもの、おおよそ非現実的でばかげた話だと思っていた。
異能や魔法なんて代物も、実際手にして扱うまで存在を信じたことはなかった。
バトルロワイヤルだか何だか知らないけれど、主催している頭のおかしな連中に踊らされ生き残るくらいなら、いっそ死んでやろうと考えていた。
だけど、気が変わった。
プレイヤーなんて駒のひとりが死んだくらい、連中には何の影響もない。
そんなことで彼らを動揺させたり、一矢報いたりすることなんてできない。
彼らにとって死など、息をするのと同じくらい当たり前の日常なのだから。
だったら────。
ふ、と目を開ける。
「俺も、ひと泡吹かせてやりたい」
そう言った律の声色や眼差しは、いつもの退屈で無関心そうなそれとは異なっていた。
ゲームに巻き込まれてから、本当の意味で、いま初めて決断を下したのだ。
「そう来なくちゃな」
大雅は口端を持ち上げた。彼ならそう言ってくれると思っていた。
律は変わった。
ゲームの展開や魔術師たちの思惑に揉まれながら、その自我を確立させていった。
誰よりも冬真に操られることが多かったのに、冬真にとっては皮肉なものだろう。
「よし。そんじゃ、おまえらに俺たちのこととこれまでにあったことを詳しく話しとく」
◇
「薄々気づいてると思うけど……小春ちゃんはね、記憶喪失なんだ」
至はどこまでも穏やかな声で、残酷な事実を伝えた。
蓮の瞳が揺れる。
「何で、そんなことに……?」
消え入りそうな声で尋ねると、至は「うん」と頷いた。
「順を追って話すよ」
それぞれを見やり、優しげな語り口で言葉を繋ぐ。
「まず、小春ちゃんと蓮くんは、雪乃ちゃんの言ってた通り祈祷師の襲撃に遭った。蓮くんは分からないけど、少なくとも小春ちゃんは殺された」



