「……だな。それに従ったのに“制裁”なんて名目で殺されたんじゃ、たまったもんじゃねぇよ」
思えば、瑠奈が魔術師としてゲームに積極的だった頃は、運営側が介入してくることはなかった。
殺さないと決めてからだ。命を狙われるようになったのは。
────“制裁”と称して。
「まさか……そういうことか」
思い至った律が呟くと、大雅も頷いた。
「なに?」
「運営側に狙われる奴らの共通点がやっと分かった。────殺し合いを放棄したんだ」
異能を持つ高校生たちのバトルロワイヤル。
魔術師同士の殺し合い。
そのルールを違反、つまり殺意や殺戮の権利を放棄したがゆえの制裁なのだ。
プレイヤーである資格はない、と判断されたのだろう。
運営側は“魔術師同士で殺し合うこと”をルールと規定しているから。
「そんな……」
「俺たちも運営側に追われてんだ。現に琴音とか……運営側に殺された仲間もいる。小春も消息不明なんだ。それも、連中の仕業かも」
はっと目を見張った瑠奈は息をのむ。
「琴音ちゃん、死んじゃったの……? 小春ちゃんまで行方不明なんて……」
以前、琴音が憎い敵だったことは事実だけれど、心を入れ替えたいまなら手を取り合えると思ったのに。
慧のことも、心から謝って償いたいと思っていたのに。
それに、堕落していた瑠奈を諭してくれた、ゲームの本質に気づかせてくれた小春までもが消えてしまうなんて────。
「……けど、そういうことなら」
大雅は一歩踏み出し、決然と宙を見上げた。
「おい、運営。聞いてるか! 俺たちは戦う。殺し合いも承知だ。分かったら邪魔すんな!」
周囲に気配はないものの、連中はきっとどこかで見聞きしているはずだ。
────風が静寂を攫って梢がざわめいた。
「ふん……。こんな分かりやすい嘘が通用するか?」
そんな紅の言葉に瑠奈は慌てた。
「ちょ、ちょっと! せっかく大雅くんが牽制したのに、聞かれたらどうするの……!?」
「大丈夫だ。殺し合う意思がないことを明確に示さない限り、連中は干渉してこない。魔術師同士が手を組んで協力することは、許容されているようだしな」
至極冷静に律が言った。
状況を鑑みて殺せない、殺さないことは看過されている。
あくまで、真正面からゲームの根本や殺意を否定した者が制裁対象なのだ。
瑠奈は思わず律を見つめた。
改めて考えると、彼がここにいることが少し意外だった。
「律くん、冬真くんのもとから離れたんだね」
「……色々あってな。やっぱり人なんて信用できない。いや、期待した俺が悪いか」
自嘲するような笑いを浮かべた彼の肩に、大雅は腕を回した。
「ばーか。最初からあいつはクズなんだよ」
律は少し驚いたように見やる。
「おまえは戦友だと思ってたかもしんねーけど、あいつにとっては所詮“駒”。はっきりしただろ。利用されてることに気づかねぇまま死ななくてよかったじゃねぇか」
「……気づいても殺されかけたがな」
思わずそう返した。
ぽんぽん、と大雅はその背を軽く叩いて離れる。
これまで律は大雅を侮って、誤解していたのかもしれなかった。
何度服従させられ、何度本来の記憶を失っても、冬真に立ち向かうことを諦めない彼を、懲りないばかだと思っていた。
そうではなかった。
彼がなぜ諦めないのか、いまなら分かる気がする。
自分ではなく、仲間のために戦っているからだ。
大雅の中では既に、律もそのうちのひとりとしてカウントされている。
散々苦しめたというのに……本当にばかだ。



