見慣れないもうひとりの彼女が言う。
確かに律は我を取り戻していた。
「何から聞けばいいのか分かんねぇけど……。瑠奈、おまえいままでどこにいたんだ? 無事だったのか? それと、こいつは誰だ? これは……時間が止まってんのか?」
「あ、それはね────」
立て続けに繰り出される大雅の問いかけに瑠奈が答えようとしたとき、目眩を覚えたらしい女子生徒がたたらを踏んだ。
そのまま咳き込むと、てのひらに血が広がる。反動だった。
「説明はあとだ……。いまはとにかく、ここから離れよう」
静止した世界の中を、脇目も振らずに走り続けた。
その途中、蒼白な顔で足を止めた女子生徒が口元を覆う。
「……っ、悪いがもう限界だ」
くずおれて座り込んだ。もう身体が持たない。
すると、止まっていた時間が動き出す────。
大雅は振り返ってみた。
冬真からは距離を取れていて、追ってくる気配もない。
「十分だ。助かった」
荒い呼吸を繰り返す彼女の回復を待ってから、廃トンネルを目指して歩き出す。
その道中、瑠奈が意気揚々と口を開いた。
「あ、先に紹介しとくね。この子は藤堂紅ちゃん。“時間停止魔法”の魔術師だよ」
「時間を……止められるのか。間違いなく最強だな」
怖いものなど何もないだろう。
どんな人も状況も、思いのままに操れるのだから。
「そう万能でもないぞ。止められる時間はたったの1分だけだ」
「なるほど、使い方次第だな」
────瑠奈が紅に対する紹介も済ませると、大雅は先ほどの問いを繰り返した。
「瑠奈、いままでどこで何してたんだよ? 何でテレパシーまで切って行方晦ましてたんだ?」
瑠奈の顔に、少し怯えたような色が差す。
「……あの日、あたしは殺されかけたの。半狐面をつけた和服姿の男に」
それが誰を指すのかすぐにぴんときた。祈祷師にちがいない。
「彼は“制裁”って言ってた。あたしは逃げたけど追い詰められて、もうだめだって思ったとき、紅ちゃんが現れたんだ。彼女があたしを助けてくれたの」
それは偶然のことだったけれど、ふたりはそれから行動をともにするようになった。
「もう……とにかくそいつが怖くて、身を隠すことにしたんだ。テレパシーと連絡を絶ったのもそのため。心配かけちゃってごめんね」
それでも、祈祷師の仲間と思しき女などに何度か狙われた。
そのたびに紅のお陰で生き永らえてきたのだった。
彼らに狙われる理由は未だに分からない。
「その狐男は、祈祷師という運営側の者だ」
淡々と律が言う。
ただ者ではないことは分かっていたけれど、まさか運営側だとは思わず、瑠奈は「え!?」と驚愕した。
「“制裁”か……」
大雅は眉を寄せた。
制裁と言うからには、何か悪いことをしている、ということだろうけれど────。
「心当たりねぇのか?」
「そりゃまあ、人殺してるし……。でも、小春ちゃんに言われてからは誰も殺してないし戦ってもないよ。そう決めたから。……小春ちゃんに誓って」
瑠奈は毅然として答えた。
彼女に気づかされ、その優しさに触れ、もう二度と過ちは繰り返さないと決めたのだ。
「……そっか」
小心者で怖がりのくせに、思いのほか芯が強いようだ。その決意は固い。
「でも……妙じゃないか? そもそも、バトルロワイヤルというのは殺し合いを前提としているものだろ。“殺し”を悪とみなしてそれを裁いているのだとしたら、運営側のスタンスに矛盾が生じる」
なぜなら、そもそもこのゲームを強いているのは運営側なのだから。



