ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 渦を巻いたのを見て、水柱が突き上がるのを覚悟した。

「くそ……」

 なす(すべ)もなく、奏汰を背に庇ったまま唇を噛み締める。
 そのときだった。

「悪い子は寝る時間だよ」

 突如として空間が歪み、現れた至が空中を滑るようにヨルに迫った。
 瞬く間にその額に触れる。

「な……」

 戸惑う間もなく、ヨルはがくんと脱力した。
 目を閉じて膝を折ると、その場にどさりと倒れる。

 潮が引くように水が凪ぎ、水位が下がって地面があらわになる。

 アリスは小春の肩から飛び降り、着地と同時に元の大きさに戻った。

「至! ……に、アリス!?」

 蓮は驚いたように彼らの姿をまじまじと見た。
 思わぬ顔ぶれだ。

「おまえ、無事だったのか」

「ま、まあなー」

 苦笑しつつ誤魔化すアリスに構わず、蓮は至に向き直る。

「危なかった。……ありがとな、また助けられた」

 彼は「ふわぁ」とあくびしつつ、硬い面持ちで言う。

「安心するのはまだ早いんじゃない?」

「出血がひどい……。すぐに日菜ちゃんに来てもらわなきゃ」

 至に続くような形で声がした。はっと息をのんで影を見つめる。

 “影の魔術師”は、やはり小春だ────。

「小春……! やっぱり聞き間違いじゃなかった。その声、小春だよな?」

 この瞬間をずっと信じて、()がれていた。

 気のせいなんかではなく、正真正銘、彼女は小春だ。
 聞き慣れた声がそれを物語っている。

 一方、影は戸惑ったようにあとずさった。
 それを見た至はなだめるように言う。

「まあまあ……話はあとね。このままじゃ死んじゃうよ」

 奏汰を見やると、ぐったりと座り込んだまま動かない。
 青白い顔色が、流れる血をいっそう鮮やかにしていた。

「本当だ、まずい」

「きみもね」

 ────連絡を受けた日菜は、昼休みだったお陰もあってすぐに駆けつけてくれた。

 重傷の奏汰と蓮に両手をかざす。

 ぼんやりと淡い緑色の光が(とも)ったかと思うと、みるみる傷口が閉じていく。
 瞬く間に()えて元通りになった。

 一方で、今度は日菜の顔色が青ざめる。

「大丈夫なんか?」

「大丈夫です、すぐに回復しますから」

 落ち着かない呼吸を繰り返しつつも笑ってみせた。
 反動(これ)ばかりは、ただ耐えるしかない。

「ありがとう」

「マジで助かった」

「いえ、お気になさらず……!」

 ふと、至は横たわる瑚太郎に目をやる。

「ねぇ。その彼、きみたちの仲間じゃなかった?」

「ああ、そうなんだけど……二重人格なんだよな。裏の人格は、魔術師なら見境なく殺しまくるサイコ野郎だ」

「なるほどね」

 瑚太郎とヨル、どちらが表でどちらが裏かという話をすれば、きっとどの結論も完全な正解ではないのだろう。

 けれど、最初に出会ったのも仲間になったのも瑚太郎だ。
 だからこそ、蓮はそういう言い方をした。

「それより、至。今日こそはちゃんと説明してくれ、小春のこと」