「桐生……」
紗夜は顳顬に触れながら呼びかけた。応答はない。
それでも何度か繰り返していると、ややあって大雅の声が返ってきた。
「大丈夫……?」
『ああ、一応平気だ』
「────桐生、平気だって」
その言葉にひとまず安堵の息をつく蓮。今度は奏汰が顳顬に指先を添えた。
「昨晩のことは概ねうららちゃんから聞いたよ。桐生くんの身に何が起きたの?」
『……背後から誰かにいきなり殴られた。完全に物理攻撃だったけど』
全員へのテレパシーに切り替え、大雅は答える。
『そいつ、うららを知ってるみてぇだった。しかも、たぶん恨んでる』
“うららの協力者か”と問う声を思い出す。答えを聞く前から知っていたようだった。何処からかつけられていたのかもしれない。
恐らく、うらら側の人間だから襲われた。
皆が思わずうららを見やった。彼女は厳しい表情で目を伏せる。
『お前らも気を付けろ』
「大雅は今、何処にいるんだ?」
『病院。治療も受けたしもう大丈夫だ』
とはいえ、昨晩受けた反動のこともあり、今日は休養するということで、大雅との合流は明日以降になった。
「ねぇ、うらら。桐生を襲ったのって……」
「ええ、恐らく────」
紗夜とうららは芳しくない事態を想定してか、浮かない顔をした。
「犯人に心当たりあるん?」
アリスが単刀直入に尋ねると、うららは頷いた。
「結城依織 という魔術師。……いえ、元魔術師と言った方が正確ですわね」
「それって、もしかして君が魔法を奪った相手?」
奏汰の問いに、うららは再び首肯した。
────消音魔法の本来の持ち主は彼女だった。
以前、ステルスで奇襲をかけて来たのを、磁力魔法で応戦したのだ。そのとき不意に“もしや”と閃いた。
魔法を引き寄せ奪うことが出来るのではないか、と。その推測は正しかった。
消音魔法しか持たない依織は、魔法の特性上、魔法のみで相手を殺すことは不可能だった。
そのため、魔法と組み合わせての物理攻撃で魔術師殺しを続けていた。殺しても当然、相手の魔法を奪うことは出来ないが。
果てにはうららに消音魔法すらも奪われ、今は無魔法の魔術師となっていた。
そんな出来事を経たゆえに、ただひたすらにうららを恨み、魔法を取り返すことは出来ないと分かっていながらも、うららを殺すことに執着している。復讐に生きている。