────廃トンネルの壁は破壊され、粉々に砕けた破片があたりに散乱していた。
蓮は脇目も振らず、その一角に蹲る人影に駆け寄る。
「奏汰!」
「……蓮」
背を預けるように座っていたものの、意識はあるようだ。
押さえている腹部からはじわりと濃い血が染み出している。
水弾で撃ち抜かれたのかもしれない。
髪や顎の先から雫が滴っていた。
何度も瑚太郎の、もといヨルの攻撃を受けた証拠だ。
「……何だ、獲物が増えたな」
ヨルが言う。
初めて目にしたけれど、確かに瑚太郎とは別人だ。
その右腕は氷に包まれていたものの、溶かせば元に戻るはずだ。
瑚太郎の身を気遣って、最低限の反撃に留めたのだろう。
「ばか……。死ぬかもしれねぇってのに」
苦しげに浅い呼吸を繰り返す奏汰は微かに笑った。
「ばかは蓮も一緒……。あいつは天敵なのにさ、ひとりで来るなんて」
「おまえが呼んだんだろ」
「“助けて”とは……言ってないし」
「……うるせ、俺には聞こえた」
そう返して立ち上がった蓮は、奏汰を庇うようにしてヨルと対峙する。
「おい夜行性、俺が相手だ」
「あ?」
不機嫌そうに首を傾げたヨルに構わず言葉を繋ぐ。
「おまえな、その身体も意識も瑚太郎に返せ。おまえのもんじゃねぇだろうが」
「あほか、それはあの軟弱野郎に言え。オレはオレなんだよ。あいつの方が偽物だ」
嘲笑を返され、口をつぐんだ。
最初に出会ったのが彼だったら、同じことを言えただろうか。
「癪に障るな、どいつもこいつも。オレを偽扱いしやがって」
ヨルは前髪をかき上げた。
いっそう目つきを鋭くし、構えた人差し指と中指を薙ぎ払う。
ふいに翻った水が平たく形を変え、刃のように迫ってくる。
それを見定めても蓮は避けなかった。
ばっ、と背を向け、動けない奏汰に覆い被さる。
「蓮……!」
「……っ」
まともに食らう羽目になり、飛んできた斬撃に背中を切り刻まれる。
衝撃に身を反らした。
血を吸ったブレザーが色を濃くしていく。
「大丈、夫……。平気だ」
どうにか絞り出すように答えると、銃のように構えた指先に炎を宿して彼に向けた。
放った炎弾はその右腕を掠めた。
一瞬、緩やかな火に包まれると凍っていた部分が溶け去る。
「……おちょくってんのか?」
ヨルはいっそう機嫌を損ね、眉根を寄せる。
弾速を落としてあったのか威力はなく、ほとんど熱風だった。
「うるせぇ。目覚ませよ、瑚太郎! いいのかよ、こんなサイコ野郎に乗っ取られたままで!」
「……ざけんじゃねぇよ」
その言葉は届くことなく、ヨルというバリアに弾かれてしまう。
低く呟いた彼は、怒鳴る気力も削がれるほど憤っていた。
“偽物”が築き上げた人間関係なんて知ったことではない。
なぜ、あいつの方が優先されるのか分からない。
なぜ、自分が邪険に扱われるのか分からない。
苦悶するように顔を歪めたヨルが手をかざすと、地面がうねって波立つ。



