始業のチャイムが鳴る頃、蓮たちは廃トンネルに集った。

 大雅の姿がない代わりに、うららがいた。

「うらら……!」

 驚いたように目を見張った紗夜が、うららに駆け寄る。少し躊躇いがちに触れた。存在を確かめるように。

「心配かけましたわね」

「どういうことだ? どうやって冬真から逃げて来たんだよ?」

 戸惑いを顕に蓮は問うた。

「桐生さんからは何も……?」

「聞いてねぇ。何かあったのか?」

「もしかして、今日いないこととも関係あるのかな」

 奏汰は眉を下げる。昨日、顔色の悪かった大雅の様子が過ぎった。嫌な予感がする。

「取り引きのことはご存知?」

「取り引き……?」

 蓮たちは何も知らないようだ。そう察したうららは、冬真の持ち掛けた取り引きの全容を明かした。

 うららと大雅の交換────それに応じ、大雅が身代わりとなってしまったこと。

「わたくし、実は消音魔法を使って少しその場に留まっていましたの」

 踊り場の死角に身を潜め、一部始終を見聞きしていた。

 陽斗が冬真に傀儡にされていたこと。小春は冬真たちとは無関係に音信不通になったこと。

 さらに、至とその仲間である姿の見えない謎の魔術師の存在や、至が冬真を眠らせたことを告げる。

「マジかよ……。何か色々起こり過ぎて理解が追いつかねぇ」

「大雅の奴はどうなったん?」

「ごめんなさい。わたくし、何だか怖くなって……その八雲さんたちが消えてからすぐに帰りましたの」

 つまり、大雅がその後どうなったのかは分からない、ということだ。

「ただ、如月さんがああなった以上、絶対服従させられていることはありませんわ。佐久間さんが独断で記憶操作を行った可能性はあるけれど……」

 大雅が反動で倒れた時点で、いや、その前から、助けに入っていれば良かった。

 また自分が絶対服従させられ、彼の邪魔になってしまうことを危惧し、躊躇ってしまった。

 夜が明けた今も連絡がつかない以上、何かあったに違いない。

 ヨルに襲われたか、他の魔術師に襲われたか。あるいは、祈祷師が現れたのかもしれない。

「何にしても、無事を確認してから離れるべきでしたわ」

「いや、そこまでの情報を掴んできてくれただけでもありがてぇよ。でも、一人で冬真のとこへ犠牲になりに行くなんていう大雅の判断は許せねぇな……」

 危険な目に遭うことは分かり切っているのに。

 何故、一人で背負ってしまうのだろう。仲間なのだから頼って欲しいところだ。

「あのさ、僕……」

 おずおずと瑚太郎が口を開く。

「最近はヨルが暴れられないように、夜は手足を縛ってるんだ。今朝、そのロープは夕方に縛ったときと同じ状態だった。だから今回は、ヨルは何もしてないと思う」

「ヨルが縛り直したんとちゃうん?」

「ヨルにそんな脳はないよ……。ていうか、ヨルはそういう小細工をするようなタイプじゃない。例えば拘束を解いて夜間に暴れたら、朝目覚めて衝撃を受ける僕を嘲笑うような奴だから」

 わざわざ縛り直して瑚太郎を騙すことはしない、ということだ。

 話を聞いている限り、確かにヨルはそういう性格の持ち主なのだろう。リアリティのある話だ。