蓮は、雪乃を気にかけていた小春のことを思い出した。
そういう人間なのだ、彼女は。
「あ、そうだ。あたしは水無瀬さんが魔術師だってこと、結構前から知ってたよ」
「マジで?」
「いつだったか、屋上で飛んでただろ? あれ見ちゃったんだ、偶然」
確かにそんなこともあった。
あのときは誰かに見られやしないかと肝を冷やしたけれど、雪乃に悪意がないことが幸いだった。
それより、と蓮は雪乃に向き直る。
「何だったら、俺が言ってやろうか? 莉子と雄星、あいつらふたりとも締めて────」
「いいよ、それは。あたしがやってるから」
「……え?」
「とにかくさ、水無瀬さん捜しなよ。あたしは生きてるって信じてる。おまえもだろ?」
首を傾げたものの、彼女に説明する気などないらしい。
「おう、当たり前だ」
蓮は至極当然といったように頷く。
雪乃も知らない失踪の詳細は、恐らく至なら把握しているはずだ。
「なあ、おまえは最終的にどうすんの? ……生き残りがおまえと水無瀬さんだけになったりしたら」
「そうはならねぇよ。俺たちは、運営側を倒すから」
蓮は臆することなく言ってのけた。
それだけが、信じて進むべき道筋だ。小春の掲げた目的だ。
雪乃は目を見張った。
ばかな、と思ったけれど、嘲ることはしなかった。
────小春の言ったことなのだとしたら、希望を信じられるかもしれない。そう思った。
希望も何も、自分は命にもこの世界にも執着なんてないけれど。
「!」
そのとき、ポケットの中で蓮のスマホが震えた。
奏汰からの着信だった。
「もしもし、奏汰?」
『……ちょっと俺、やばいかも』
肩で息をしているのが電話越しでも分かる。
取り繕うように笑っていたけれど、実際にはかなり余裕がなさそうだ。
嫌な予感がした。
「どうした? 何があったんだよ? 冬真が来たのか?」
『そうじゃなくて……。早坂くんの人格が変わっちゃったんだ。殺されるかも』
瑚太郎のことを考えると、下手に反撃もできない。
「分かった、いますぐ行くから何とか持ちこたえろ」
そう言うと、通話を終える。
「悪ぃ、俺帰るわ」
返答を待たずして駆け出した蓮だったものの、ドアの手前で一度足を止めて振り返った。
「なあ。図々しいのは分かってるけど、また何かあったら巻き戻して助けてくれねぇか?」
「ばーか、嫌だね」
一考の余地もないらしく、間髪入れずに雪乃は拒んだ。
「何で!」
「おまえ、何か勘違いしてないか? あたしはあくまで水無瀬さんが心配で、水無瀬さんを助けたいだけ。おまえなんかどうでもいいし味方でもねぇから。あたしに期待すんな」
ばっさりと切り捨てられた。
できれば何とか説得したいところだけれど、いまは時間がない。
「じゃあ、せめて────」



