律の声を借りながら、心底苛立たしそうに低い声で呟く。
『何で運営側を倒さなきゃいけない? むしろ僕は感謝してるのに……。声は失ったけど、代わりにこんな大いなる力を手に入れた。その気になれば誰もを跪かせられる』
だんだんとその声に熱が込もっていく。
『世界は僕のものだ。誰も抗えない。僕こそが神だ。そうだろ!』
侮蔑するような冷酷な視線を突き刺した。
『ばぁか……とんだ恩知らずどもが。僕まで一緒くたにされて、反逆者だと思われたらどうする。僕を巻き込むな。僕は満足してるんだよ』
ゲームに巻き込まれたプレイヤーが、全員もれなく被害者だなんて決めつけないで欲しい。
何を隠そう、いま放った言葉が冬真の本音だ。
渇ききった平坦な日常に、色と悦びを与えてくれたウィザードゲーム。
おおよそ非現実的な、異能者同士のバトルロワイヤル。
魔術師となったいまの方がよほど、毎日に生を実感する。
能動的に生きていると思える。
運営側を倒す、なんてばかげている。
せっかく手に入れた愉しみを自ら手放すなんてありえない。
素晴らしい非日常を与えてくれた運営側に、そんな恩知らずな真似はできない。
『律……。きみがそんなにばかだとは思わなかったよ。くだらないことばっか考えて僕の敵になったら困るからさぁ、もう身体は返さないよ? きみは死んだも同然。残念だったね』
────大雅は律の流した涙の意味を推し量るように、その双眸をじっと見据えていた。
彼が傀儡になっていることが答えだ。
冬真にとって律は、戦友などという崇高な存在ではなかった。
律の中に閉じ込められた律は、きっと悔しくてたまらないだろう。やるせないだろう。
その本心を無下にされた上、なす術なく意思に反した行動を強いられているのだから。操り人形として。
「…………」
律は大雅の頭に触れる。
冬真のせいで動けず、抵抗できない大雅はただ口をつぐんでいた。
記憶のフィルムが切り取られ、霧のように消えていく。
冬真への逆心、蓮たちの仲間であること、運営側を倒すという目的、至のこと────冬真にとって不利になるような、あらゆる記憶が。
「う……」
しばらくして律が手を離すと、大雅は自身の頭を抱えてうなだれた。
脳が痺れるような違和感が、たちまち治まっていく。
この場でただひとり、楽しそうな冬真は笑みを深めた。
「大雅。佐伯奏汰の本当の居場所、聞き出して」
今度こそうまくいく。
そう確信したものの、予想外の出来事が起きた。
突如として、大雅が飛びかかってきたのだ。
「……!?」
乱暴に襟を掴んで引き寄せると、拳で思いきり冬真の頬を殴った。
不意をつかれた彼が倒れ込むなり、馬乗りになって再び胸ぐらを掴む。
冬真は痛みなど忘れ、動揺を隠せないまま大雅を見た。
鋭い目つきで睨み返してくる。
(何で……)



