「あ……?」
興がるように微笑んだ冬真の言葉に、大雅の双眸が揺らいだ。
────祈祷師。
またしても運営側である彼が、冬真の味方をした。
いったいなぜだろう。
琴音の件以降、同盟は終わっているのではなかったのか。
「さすがに名前までは教えてくれなかったけどね。星ヶ丘に魔術師がそれぞれ何人いるか、だけは教えてくれた。だから、きみを試させてもらったよ」
そのために、あえて絶対服従の術をかけなかったのだろう。
まんまとしてやられた。
うろたえる大雅のもとへ歩み寄ると、冬真は容赦なくその腹部を膝で蹴った。
「う……っ」
不意をつかれてよろめいた大雅の両腕が、律によって素早く後ろでまとめ上げられる。
「り、つ……」
意思とは関係なく牙を剥かされたようだ。
傀儡と化しているはずなのに、彼の表情が一瞬歪む。
そのとき、首元にひやりと冷たい金属のような感触がした。
唐突な出来事にはっと息をのむ。
「きみだってこのまま死にたくないよね。なら、諦めて僕を見ろ」
首にあてがわれているのは、冬真が普段から持ち歩いているナイフにちがいない。
少しでも動けば取り返しのつかないことになる。
どうする、なんて考えている暇はなかった。
……5秒という時間はあまりにも短い。
「大人しくしててよ?」
大雅を押さえていた律は手を離した。
冬真は満足気に口端を持ち上げる。
「まずはその物騒なものを捨てようか。鏡の破片……まだ持ってるよね。そこに捨てるんだ」
言われるがままにポケットに手を入れた。
そこには確かに、鏡片を忍ばせている。
ちかっと光を反射したそれを手離すと、甲高い音とともに地面に落ちる。
冬真は念のため、蹴って遠ざけた。
「さあ、聞こうか。きみたちの仲間……硬直魔法を持つ魔術師の名は何だ? 答えろ」
「……佐伯、奏汰」
大雅は悔しげに唇を噛み締める。
意思に反して、勝手に口をつく。
「ああ、あいつか。確かによく考えればそうだよね、あの腕」
意外なことに冬真は奏汰を知っているようだった。
それなら、こんな展開にならずとも遅かれ早かれ露呈していたかもしれない。
「ちなみにその佐伯奏汰だけど、硬直のほかにも何か持ってる?」
「……氷魔法」
「そいつはいま、どこにいる?」
大雅は首を左右に振った。
「知らねぇ」
「聞きなよ、いま。テレパシー繋いでるでしょ?」
そう言われて「くそ……」とぼやく。従わざるを得ない。
とはいえ、テレパシー自体は声に出さなくとも送れる。
「奏汰、いまどこだ?」
顳顬に指を添えると、口に出してそう尋ねながら、心の内で念じるように叫ぶ。
(頼む、答えるな……!)
『え、桐生くん?』
奏汰の困惑したような声が返ってくる。
(俺、いま操られてるんだ。正直に答えなくていい)
まくし立てるようにして告げた。
何とも情けない話だけれど、冬真には結局また勝てなかった。それが事実だ。
「大雅、余計なことは言わないでよ?」
律を介して冬真は釘を刺す。
『操られて……? 大丈夫なの?』
奏汰は案じてくれたものの、冬真のせいでもう心の内でもテレパシーを返せない。
『俺はいま……学校にいるよ』



