ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜

     ◇



 一方、登校した大雅は廊下で冬真と出くわした。
 待ち構えていたように彼は顳顬に指を添える。

(始めよう)

「……ああ」

 平然と答えてみせたものの、内心安堵していた。

 絶対服従させられないのなら、意図的に奏汰のことを隠しておける。

 ────3年4組の教室を覗き、大雅は日菜を呼び出した。
 そのまま3秒間目を合わせておく。

 彼女の能力は昨日紗夜たちが言っていた通り、回復魔法だ。

 対象の傷に手をかざすことで発動するものの、ガチャの代償で失った部位や身体機能を回復させることはできない。
 また、大きな反動を伴うという弱点があるようだ。

「あの、あなたは……」

「俺は桐生大雅。おまえが昨日助けてくれた紗夜やうららの仲間だ」

 自身のテレパシーについても軽く説明しておくと、警戒を解いたように彼女は気を緩める。

「そうなんですか。その後、おふたりは?」

「大丈夫だ、ありがとな」

「いえ、よかったです。ところで、何かほかにお話でも?」

 日菜は首を傾げる。
 紗夜たちの一味なら、至や小春を捜しているのは彼も同じなのではないだろうか。

 敵意はなさそうに見えた。
 困っているのなら、できる限り手伝いたい。

「ああ、そうだな……」

 何から話すか、少し迷ってから口を開く。

「3年7組に如月冬真って魔術師がいるんだけど、実は俺たちと対立してるんだ。いまも仲間のひとりが狙われてる状態」

 その言葉を日菜は黙って受け止める。

「俺はもともとそいつの側でさ、いまは利用されてるふりしてる。隙を見てもっかい至に眠らせて欲しいと思ってんだけど、また力貸してくんねーか?」

 それに対する答え次第で、至が敵か味方か見極められる。

 大雅はそう考えたものの、日菜の反応は予想とは異なっていた。

「ちょっと待ってください……。如月くん、いま起きてるんですか?」

「え? ああ、何か今朝、目覚ましたらしい」

「そんな……どうしましょう。八雲くん、眠ってしまったんですね」

「どういうことだ?」

 彼女が何に動揺しているのか分からなかった。
 至が眠ってしまった?

 日菜はためらいつつも、泣きそうな表情で顔を上げる。

「八雲くんに怒られるかもしれないけど、緊急事態なので仕方ありません。……教えます、彼の異能について」

 ────睡眠魔法は、相手の額に3秒間触れることで発動し、相手を強制的に眠らせることができるという。

 眠らされた者は、自力で目覚めることができない。

 第三者に起こされれば目覚められるものの、能力が完全に解けるわけではなく、慢性的(まんせいてき)な強い眠気に襲われ続ける。
 そのため、再び眠りに落ちることは避けられない。

 だんだん入眠の間隔が縮んでいき、起きていられる時間が短くなっていく。

 最終的に自力でも他力でも目覚められなくなるのだそうだ。

 術者の死亡あるいは気絶(術者自身が眠った場合も含む)、もしくは術者からのキスで完全に能力が解除される。

 そして、この異能はほかの異能とは受ける反動が少しちがっていた。

 “術者自身も強い眠気に襲われる”というものだ。