ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 いい予感はまったくしない。大雅は険しい顔つきになる。

「……分かった」

 けれど、そう答えるほかにない。

 冬真に会えば、彼が何をする気かは明白だ。
 これまでのことを考えれば、会うべきではないだろう。

 それでも大雅は気負っていた。
 彼との因縁を考えれば、やはり逃げるわけにはいかないのだ。

「おまえら、聞いてくれ。冬真が目覚めた。至に起こされたわけではなさそうだった。でも、何で起きたかは分かんねぇ」

 大雅は仲間たちにテレパシーで伝える。

「とりあえず今日は呼び出されたから行ってくる」

『……待てよ、危険だろ』

 大雅の身を案じた蓮は真っ先に異議を唱えた。
 それは重々承知だ。

「行かねぇ方が面倒なことになる」

 律のことが心配だというのもあった。
 もし嘘をついたことがバレたら、無事ではいられないだろう。

「それと、奏汰。おまえはいまのうち逃げといた方がいい」

 なるべく誤魔化すつもりだけれど、絶対服従させられないとも言いきれない。
 そうすれば隠しきれない。

「詳しくは聞けなかったけど、冬真には異能で殺す手段があるらしい。だから、あいつには見つからねーようにしろ」

『分かった』

 大雅の忠告を受け、奏汰は廃トンネルに(かくま)われることになった。
 もしものときの戦力として、瑚太郎も控えておく。

 小春を見つけ出す目処(めど)も立ったことで、ほかの面々は学校へ向かった。

 教室に入った蓮は、何気なく仲間たちの席に目をやる。

 花瓶の載った慧と琴音の机。瑠奈と小春の空席。
 何だか心に大きな穴が空いたような気になった。

 屋上に集まって昼食をとりながら、ゲームに関して色々と話し合っていたことがもはや懐かしい。
 二度と、戻ることはない。

 ────昼休みを迎えた。
 自販機から教室へ戻る途中、廊下にぽつんと佇む女子生徒と目が合う。

 隣のクラスで莉子や雄星にいじめられていると(おぼ)しき彼女。
 以前、小春が声をかけていたことを思い出す。

(確か……五条雪乃、だっけ)

 長い前髪の隙間から覗く瞳は相変わらず陰鬱(いんうつ)な印象だけれど、蓮を捉える眼差しは強かった。

 何だか呼ばれているような気がして、ためらいがちに歩み寄る。

「あー、その……小春なら今日はいねぇぞ。今日ってか、ここんとこずっとだけど」

「……おまえは何してる」

 予想外の口調にたじろいだ。

 その強気な視線といい、堂々としたもの言いといい、思っていたのとちがう。

 あのとき床に這いつくばっていたのと、本当に同一人物なのだろうか。

「何、って……」

「捜しにいけよ、水無瀬さんのこと。なに暢気に授業受けて昼飯食ってんだよ」

「え? おま……。なに、どうしたんだよ」

 何からどう尋ねるべきか、すっかりペースを乱されてしまう。

 困惑する蓮を見兼ねた雪乃はため息をつき、スマホを取り出した。

 蜘蛛(くも)の巣のようにバキバキに割れていたものの、画面を見ることはできる。
 とある動画を再生すると、蓮に突きつけた。

 それを目の当たりにした彼の双眸(そうぼう)が揺れる。

 思わずペットボトルを取り落とした。

「何、だ……これ……」