「んー、厄介だね。ボクらに対処法ないし。こうして術者がねんねしてくれるのを待つしか」
「……口づけ、という手段もあるけど?」
その顎をすくい、呪術師は艶やかに微笑んだ。
祈祷師はけらけらと笑う。
「ボクは大歓迎だけど、術者がしてくれるワケないじゃーん」
霊媒師は息をつき、腕を組んだ。
「で? もう再起したってことで、リベンジ行けんだよね」
「モチロン」
意気揚々と答えたものの、意外なことに陰陽師が「待て」と制した。
「標的が睡眠魔法使いの八雲至と近い。いまは束でかかっても同じことの繰り返しだ」
「じゃ、どうすんの」
「間が悪いってこと。それに、ちょっと面白い展開になってきたんじゃないか?」
霊媒師の投げやりな問いに答えた呪術師は、興がるように笑う。
「あー……確かに荒れそう。ここで運営側が干渉するのはナンセンスかもね。とりあえずオブザーバーに徹した方が楽しめそう」
呪術師の言わんとすることに気づいた霊媒師も、くるりと傘を回して口端を持ち上げた。
からん、と祈祷師の下駄が鳴る。
「霊ちゃん。申し訳ないんだけどさぁ、1回だけちょっかいかけてきていい?」
「え? どういうつもりよ。白けさせたら許さないよ?」
「その点はダイジョーブ! ゲーム性は損なわせないよ。それでいて、違反者を片づけられるかもしれない」
◇
『きみも目が覚めたか?』
ふいに繋がれたテレパシーに、大雅は驚いて息をのんだ。
至の言っていた“あいつ”とは、冬真のことだったのだろうか。
(にしても……“きみも”って何だ?)
冬真は大雅も眠っていたと思っているのだろうか。
もしかすると、律がそう嘘をついてくれたのかもしれない。
いっそ、このまま眠ったふりをしていようかとも考えた。
けれど、すぐに思い直す。
いまや律はどっちつかずの立場だ。
大雅のために嘘までついてくれた。
協力すれば、冬真の支配を掻い潜れるかもしれない。
そこまでは行かなくとも、記憶操作は“ふり”で留めてくれるかもしれない。
運営側がいつ襲ってくるか分からないのに、冬真の脅威に怯えている場合ではなかった。
「ああ、起きた」
『よかった。……八雲至にはしてやられたね。でも、だからってすぐに復讐に走るほど僕もばかじゃない。このままじゃどうせ敵わないからね。当初の目的を果たそうか』
予想外の出方だった。
思いのほか冷静なことに驚いてしまう。
『2、3年の魔術師を洗う。そのあと、他校の魔術師も。八雲を倒すのが現実的じゃないいまは、力を得ないと────硬直魔法を手に入れて』
「でも、冬真……。おまえ、どうやって異能で殺す気だよ? 傀儡じゃ相手を死に追いやるとしてもせいぜい自殺だろ? 自殺じゃ異能は奪えねぇはず」
『それに関しては考えがある』
「どんな?」
『いいからきみは今日、学校へ来て。もう妙な気は起こさないでよ?』



