「や、八雲……。この子とあたしは仲間やった。わけあってあたしはみんなのもとを離れたけど、それは八雲、あんたの仲間にして欲しいからで……。あれ、それよりあたし何で目覚められたん?」
「……まずいことになっちゃった」
言い訳じみた言葉を何ら取り合うことなく、強張った面持ちで眉を寄せる。
素早く立ち上がると小春に駆け寄った。
その肩に手を添え、やや屈んで視線を合わせる。
「よく聞いて。きみの名前は水無瀬小春。この異能バトルロワイヤル……ウィザードゲームの魔術師だ。空を飛べる異能と、それから────“光魔法”の持ち主」
「光……?」
アリスは思わず聞き返した。
いつになく真剣な語り口で至は続ける。
「ウィザードゲームっていうのは────」
懇々といちから説明する彼と戸惑いながらそれを聞く小春を、混乱したまま見比べた。
彼はそれから自身やアリスについて簡単に説明を済ませる。
「あともうひとり、三葉日菜って子がいるけど、彼女はカモフラージュのために毎日学校に通ってる。だから日中は、基本的にここへは来ない」
ひと通り聞き終えると、小春は圧倒された様子だった。
理解できるかどうかは別としても、混乱が一周して、逆に冷静に受け止められた。
「戸惑うと思うけど、いまはゆっくり説明してる時間がない。急いで行かなきゃいけないところがある。きみの力を貸してくれ」
「う、うん」
ほとんど反射のように小さく頷く。
あれこれ聞こうと思ったアリスだったけれど、そんな暇もなかった。
廃屋の外へ出た小春が手をかざすと、その場に結界のようなものが張られた。
彼女を中心に半球形のドームのようなものが生まれるも、瞬くと風景に溶け込んで見えなくなる。
「光学迷彩。この円の内側に入れば、小春ちゃんを視認できると同時に外からは見えなくなる」
「……なるほど、これが透明化の秘密か」
光魔法の応用だったわけだ。
納得しながら円の内側へ入ろうとしたものの、小春に呼び止められる。
「美兎ちゃん、小さくなれる?」
「へ?」
「わたしが同時に飛ばせるのはひとりまでなの。至くんを飛ばすから、美兎ちゃんは小さくなってわたしに乗って」
小春の言葉に頷くと、最小サイズに矮小化した。
屈んでくれた小春のてのひらから腕を伝って肩へ上る。
「なあ、美兎やなくてアリスでええよ」
人懐こく微笑んでみせる。
「あんたの身に起きたことは、何や急用とやらが終わったらじっくり聞くわ」
「それは分かる範囲で俺から説明するよ」
あるいは、言える範囲で。
彼女は信用に値しないものの、一旦は行動をともにしておいた方が都合がいいだろう。
「急ごう。……“彼ら”が危ない」
◇
「まったく……。ようやくお目覚めだよ、眠り姫が」
呪術師に皮肉を吐かれた祈祷師だったが、特に気に留めることなく苦笑した。
「あちゃー、睡眠魔法か」
自分の身に起きたことを思い出す。



