「ふーん……」
「あー、ごめん。脱線させちゃって。それで、何で狐くんに狙われてたんだっけ?」
「それに関しては俺たちにもよく分からないんだ。それと、あいつは祈祷師って呼ばれてる運営側の一員だよ」
奏汰が神妙に答えた。
狙われるのは、自分たちの掲げる“打倒運営”という目的が不都合だからかもしれない。
しかし、あの力量の差だ。悔しいけれど、脅威にもならないだろう。
わざわざつけ狙う必要があるのだろうか。
「あー、やっぱあれが例の祈祷師……」
考えるように顎に手を添えた至は、ほどなくぱっと顔を上げる。
「で、聞きたいことっていうのは?」
「あ、ああ……。実は俺たちもおまえを捜してたんだよな」
「へぇ、光栄だな。どうして?」
────蓮は警戒と期待、半々の眼差しで粗方の事情を説明した。
小春の存在と、彼女が失踪した話。そして。
「もしかして、おまえのとこに小春がいたりしねぇか?」
射るほど真剣な蓮の眼差しに、ぴり、と空気が張り詰める。
それでも、至は変わらずマイペースな調子だった。
「小春……ね。何ていうか、知ってはいるよ。俺たちと行動をともにしてる」
あまりにさらりと言われ、反応が一拍遅れた。
「本当か!?」
思わず身を乗り出した彼を制するように「でも」と至が続ける。
「きみの知ってる“小春”じゃない。……分かる?」
「分かんねぇよ……。どういうことだよ。ちゃんと説明しろ!」
蓮はたまらず苛立ちをあらわにした。
目の前に垂らされた蜘蛛の糸に、あとほんのわずかだけ届かないようなもどかしさを覚える。
打って変わって至は緊張感に欠けていた。再びあくびをする。
一瞬ぼんやりとした彼は、振り払うようにかぶりを振った。
「まずいな……。眠らせすぎた」
「?」
戸惑う蓮たちをよそに、至はややおぼつかない足取りで歩き出す。
「ごめんけど、そろそろ限界。今日のところは帰る」
「な……おい! 逃げるのかよ!?」
「あともうひとつ悪いんだけど……あいつも起きちゃうかも」
「待────」
蓮が引き止めようとした瞬間、唐突に彼女の声がした。
「至くん……」
はっとして思わず動きを止める。
案ずるような小さな声だったけれど、いまのは────。
(小春……?)
至が影のそばに寄ると、ふっとその姿が消えた。
現れたとき同様、透明になって見えなくなる。
蓮は慌ててふたつの影に駆け寄った。
その瞬間、まるで目くらましのようにあたり一面が眩い光に包まれる。
「おい、待てよ!」



