水圧と轟音に怯みながら、勢いよく迫ってきた水柱を見上げた。
津波のように形を変えたそれが4人を飲み込もうとした寸前、とっさに奏汰が凍らせる。
「さすがに一筋縄じゃいかないか」
口笛を吹いた祈祷師の言葉を無視し、蓮は鋭く見据える。
「おまえ、何なんだよ。何で冬真に手貸すんだ? 目的は?」
「はいはい、うるさい……。ん? 何かこんなこと前にもなかった? や、気のせいか」
妙な感覚を覚えたのは蓮も同じだった。
こんなふうにあしらわれたことが前にもあったような気がする。
何の既視感だろう?
「キミたちさ、まだ気づいてなかったんだ。じゃ教えたげる。ボクは運営側の一員だよ」
その言葉に、目を見張った4人は息をのんだ。
祈祷師の唇が弧を描く。それぞれの反応を楽しんでいるようだった。
「運営側……!?」
「トーマっちに手を貸してたのは、セナコトネを殺すって目的がたまたま一致してたから、そんだけ。特に深い理由はないよ。そんで、まあ……コトネンは死んだから、トーマっちとの同盟も終わった」
「……いまは仲間じゃない?」
「そだねー。もともと仲間でもないケド」
意外なことに祈祷師ははっきりと答えてくれた。
蓮は「なんだ」と息をつく。ほかの面々も同じ気持ちだった。
それなら、別に祈祷師は冬真の味方というわけでもないのだ。
「じゃあ冬真のとこ行って至を待ち伏せできるな」
「ちょっとちょっと。そういう先のことはさ、この窮地を脱してから考えるべきじゃない?」
そう言った祈祷師が指を鳴らすと、再び水面がうねって膨らんだ。
まるで大きな手のような巨大な波が迫ってくる。
「!」
先ほどのようにすぐさま氷結すると、足をとられないうちに蓮が手を掲げた。
凍った大波に炎の塊をぶつける。
幕が落ちるように融解し、ばしゃん! と一帯に飛沫が散った。
「ふふ、考えたねぇ。でも、あと何回続けられるかなぁ」
再び指を鳴らそうと祈祷師が腕をもたげたときだった。
ひゅっと目にも留まらぬ速さで何かが視界を横切った。
「痛った〜……」
祈祷師は肩口を押さえていて、じわじわと血が滲み出ていた。
何かで貫かれたようだ。
「何だ……?」
蓮たちも戸惑った。
突然、何が起きたのだろう。
そのうちに水が引いていき、足元のコンクリートがあらわになる。
「邪魔が入ったな。しかも、姿を見せないつもり? 陰湿だなぁ、その異能とは裏腹に」
祈祷師が不満そうにぼやいた。
いったい誰と話しているのだろう。
「でもザンネーン。夕暮れ時だから丸見えだよ、影が」
地面に伸びる影を指した。
それを目にした4人は目を見張る。
自分たちと祈祷師を除いて、ふたつの影があった。
影だけがあった。



