「消したわけじゃなかったのか」

 屋上で慧の遺体が消えるところを目にしたが、実際には、あれは瞬間移動させられていたようだ。

「じゃあ、琴音や陽斗もどっかで……」

 これまでの死者たちが瞬間移動させられていたなら、彼女たちも何処かへ飛ばされていたわけだ。

 蓮は思いついたように顔を上げる。

「その遺体に何か手がかりがあったりしねぇかな」

「手がかり?」

「例えば、小春に繋がるような!」

 噛み付くような勢いで返され、聞き返したアリスは思わず尻込みした。それから呆れたように息をつく。

「はぁ……。また“小春”か」

「何だよ?」

「うんざりや。口を開けば小春、小春って。あんたの頭ん中、あの子のことしかないんか?」

「……あ? 心配してるだけだろうが」

「だからそれが過剰や言うてんの。心配するんは勝手やけど、あたしらを巻き込まんといて」

 ただでさえ小春の善人っ振りには嫌気がさすのに、過保護な蓮の態度がそれを助長させていた。

 小春のためなら命をも惜しまない、という信念にも共感は出来ないし、そもそもアリス自身がそこまでする義理はない。

「そんな言い方……」

「あたしら“仲間”なんやろ? だったら一人一人、行動に責任持ってくれんと困る。嫌でも巻き込まれるんやから」

 宥めるように割り込んだ奏汰に、アリスは毅然と言い返した。

 それはその通りだろう。一人の選択に、少なからず他の面々も左右されることとなる。彼女の言葉に反論はない。

「俺はただ────」

「あんたの仲間は小春だけか? ちゃうやろ。だったらもっと周り見てや。……別に小春を大切にするのが悪い言うてんとちゃうからな」

 アリスの言葉は予想外のところに帰着した。彼女が“仲間意識”というものを持ち合わせていることにも驚いてしまう。

 ただ否定的な態度を取られ、責められるものだとばかりだと思っていた。

「おう……、そうだよな。悪ぃ」

「そんで? これからどうしたいって?」

 蓮は顔を上げ、決然とした表情を湛える。

「小春を捜したい。生きてても……そうじゃなくても。無能警察より先に見つける」

「……分かった。じゃ、小春捜しと並行して遺体捜しな。蓮の言う通り何か手がかりがあるかもだし」

 こくりと大雅は頷き、迷わず同調した。

 どのみち、今の全員の精神状態では、意をともにして運営側を倒すことなど出来ないだろう。

 その本来の目的から、意識が逸れてしまっている。

 蓮はそれぞれの反応を窺った。大雅や奏汰をはじめ、一様に同意してくれている。

「あたしは一旦、学校に戻るわ。あとで合流する」

 アリスはそう言うと、ひらひらと適当に手を振って廃トンネルを後にする。

 情報収集に勤しむつもりだった。



 アリスが学校へ戻ると、二限目が終わる頃だった。

 移動や友だちとの雑談で騒がしい廊下を歩きながら会話に聞き耳を立てる。新たな魔術師はいないだろうか。

 期日まで時間がなくなってきた今、さすがにもう増えることはないだろうか。

 アリスは女子トイレへ入った。噂話と言えばここだ。