ぎりぎりで一矢報いたというのに、あえなく解毒されてしまった。
ぱっと開放された紗夜の身体が落下していき、灼熱の炎に飲み込まれる。
その瞬間、唐突に地面が波打って膨らんだ水流が打ち寄せた。
燃え盛っていた炎が消え、シュウ、と立ち上った白い煙であたりが霞む。
とっ、と優雅に着地した呪術師は、意識を失ったまま水平に伏すふたりを見下ろして笑った。
「安心しな、殺そうと思ったが見逃してあげるよ。どうやら“殺る気”を損なってはいないようだからね。まあ、しかし……」
扇子で口元を覆う。
「このまま出血多量で死んでも、それはあたしの知ったこっちゃないからご愛嬌ね」
あたりに閃光がほとばしり、呪術師は天界へと帰還した。
◇
「で、どうやって至を捜す?」
「現れたのは星ヶ丘高校付近で一度、そしてその屋上で一度……だっけ。その辺にいれば会えるかな?」
「でも、屋上に現れたのは端から冬真たちを目的としてって感じだった」
「んー、ならそこで張ってても意味ないか」
「気が向いたら起こしにくるってことは……冬真のそばにいればいいってことか?」
大雅の呟きに、それぞれ顔を曇らせる。
「ちょっと怖い……」
「佐久間くんが黙ってないんじゃない?」
「や、こんだけいれば律ひとりくらい封じ込めるんじゃねぇか」
その存在を懸念したとき、大雅が「いや」と割って入った。
「律ならとりあえず大丈夫だ。少なくとも冬真が目覚めるまでは、こっちに手出ししないって約束してくれた」
「へぇ、そっか。意外だけどそりゃよかった」
「佐久間くんが大丈夫でも、祈祷師がいるんじゃない……?」
奏汰が不安気に言うと、蓮もはっとする。
「祈祷師なら睡眠魔法も使えるんじゃねぇか? あいつ何でもありなんだろ」
「じゃあ、冬真くんはもう起きてるかもしれないってこと?」
「うわ、じゃあ近づけねぇじゃんか。くそ……」
本当に厄介な存在だ。
彼が冬真側にいる限り、やはり足止めを食らう羽目になってしまう。
「────もー、トーマっちったらボクの権威利用しすぎ。ま、別にいいケドさ」
突如としてそんな暢気な声がして、4人は振り返る。
着崩した和装に白髪、そして半狐面をつけた長身の男。
そんな目立つ装いから、ただ者でないことは明白だった。
初めて目にかかったものの、彼が祈祷師だと直感的に分かる。
それぞれが思わず身構えると、彼はけらけらと笑った。
「ビビりすぎだって。その警戒心は正しいケドね。何せボクはキミらを殺しにきたんだから」
「なに……?」
「面倒くさいから一気に片づけていい?」
小首を傾げた祈祷師から思わずあとずさったとき、ぱしゃと飛沫が跳ねた。
いつの間にか足元を浸していた水が渦を巻いたかと思うと、巨大な水柱が突き上がる。



