「……やられたって言うのか? 小春が」

「まぁ、単独じゃ対抗手段もないしなぁ。言うても空飛べるし、逃げられるはずやけど」

 アリスの言葉は、蓮にとって希望的観測のように感じられた。そうだといい。

 小春の身に何かあったのだとしても、逃げて無事だといい。

「でも、逃げたなら蓮や俺に連絡取るんじゃねぇか? つか、俺らと合流するだろ」

 大雅の真っ当な意見には、蓮も項垂れるしかなかった。その通りだ。

 無事でいるなら、家へ帰るなり電話なりメッセージなりテレパシーなり、いずれかの行動を取るはずだ。

 それがないということは────と、ついネガティブな発想が芽生えかけ、かぶりを振る。

 希望が潰えたわけではない。テレパシー自体は切断されていないのだ。生きている可能性はある。

(……いや、生きてるに決まってる。俺の知らねぇとこで死なせてたまるかよ)

 やるせない思いと、希望を信じる気持ちを閉じ込めるように、蓮は強く拳を握った。

「なぁなぁ、ところでうららはどうなったん?」

 救出に失敗し、冬真の手元に置き去りになっているうらら。

 大雅は答える。

「無事だ。けど、完全に人質に取られたな」

 命の保証はされている、と一応安心は出来る。紗夜にもそう告げていた。

 しかし、逆に不安も生じる。うららを生かしていることには意味があるはずだ。

 冬真はまた、何かを企んでいる。

「……状況を整理しようぜ」

 謹厳な面持ちで蓮が言った。

「今の俺たちの敵は、祈祷師と如月冬真────で、合ってるか?」

「あと、ヨルな」

 アリスの補足に瑚太郎は肩を竦める。

 大雅はそんな彼を一瞥した。冬真の一味であることは、まだ言い出せていないようだ。

「まず……慧が、冬真に操られた瑠奈から琴音を庇って死んだ」

 蓮は淡々と事実を言葉にする。

 ────その後、小春の言葉に応じて自省した瑠奈が行方知れずになった。

 次に琴音が冬真の罠にかかり、冬真と手を組んでいた祈祷師に殺された。ほぼ同じタイミングでうららが人質に取られる。

 そして昨日、陽斗が何者かに殺害され、小春も消えた────。

 立て続けに多くの仲間を失った。そんな現実に、重い空気が流れる。

「祈祷師って何なんだろうね。如月くんたちと手を結ぶってことは、魔術師の敵とも言い切れないし……」

「何で僕たち狙われるの?」

 奏汰と瑚太郎の言葉には、誰も何も返せない。答えなど持ち合わせていない。

「なぁなぁ、これ……」

 不意に声を上げたアリスは、スマホの画面を掲げて見せた。

 そこにはニュースの記事が載っていた。慧の遺体が、とある工事現場から発見されたとの内容である。事件とも事故とも結論が出ていないのに、捜査は既に打ち切られているようだ。……いつものように。