ぼうっとしなやかな手に炎を宿し、てのひらを翻した。
瞬く間に足元の芝生が燃え盛り、熱風と炎に包囲される。
「うらら……!」
「ええ」
頷いて両手をかざすと、地面と反発してふわりとふたりの身体が浮かび上がる。
紗夜は袖口から注射器を取り出して構えた。
「わたしたちが死人……? 勝手に殺さないでくれる?」
その迫力にも怯むことなく、呪術師はくすくすと愉快そうに笑う。
「威勢のいいこと」
ふいに眼光を鋭くすると、地を蹴った呪術師も宙へ舞い上がった。
その滑らかな動きからして、磁力での浮遊ではなく飛行魔法だろう。
開いた扇子を薙ぎ払うように動かすと、ふたりはぶわっと強風にあおられた。
思わず目を瞑ると、身体中に鋭い痛みが走る。
「う……」
「痛っ」
鮮血が翻って舞う。
ふたりの身体に無数の切り傷が刻まれ、ぱっくりと開いた傷口から血が滴った。
「平気?」
「うん……。でも、どうする?」
目の前には呪術師、真下に広がるのは火の海、ふたりは既に満身創痍で追い詰められていた。
「一瞬でかたをつけるしかありませんわ。わたくしが引き寄せるから、あなたは注射器でトドメを刺して」
「分かった……」
うららが呪術師に向けて両手をかざすと、その軌道がうねって薄い紫色の電光が走る。
身軽に一回転して磁場を抜け出した彼女は指を鳴らした。
いくつもの氷の刃が現れ、うららのもとへみるみる引き寄せられていく。
「な……っ」
突然のことにうろたえるも間に合わず、きらりと光った鋭い切っ先が次々と突き刺さった。
「うらら!」
衝撃と激痛に悲鳴を上げて悶絶する。
ふっと意識が飛びかけて磁場が乱れると、ふたりの身体が火の海へ落ちていく。
「……っ」
渾身の力を振り絞り、うららは紗夜にてのひらを向けた。
紗夜の身体が再び浮かんだかと思うと、そのまま弾かれたように呪術師の方へ飛んでいく。
とっさに注射器を握り直し、その首に針を突き刺した。
「!」
それを見届けたうららは静かに目を閉じる。
熱風に肌を焼かれながら落下していき、燃え盛る火の海に沈んだ。
磁力が消え去ったお陰で、紗夜の身体も落ちていく。
その瞬間、ガッ! と勢いよく呪術師が彼女の首を掴んだ。
「く……」
「なかなかやるじゃないか。いい連携だったと褒めてやろう。だが────」
宙吊り状態の紗夜は息ができず、あまりの苦しさに顔を歪める。
呪術師はその腕を取ると、滴る真っ赤な血を舐めとった。
「残念ながら、これであたしの完勝だ」



