今までに味わったことのない激痛が、朦朧としていた意識を覚醒させる。

 それでも、身体は既に言うことを聞かなくなっていた。悲鳴も呻き声も上がらない。

 口から血があふれた。一瞬にして水が赤く染まる。

 力が入らない。立っていられない。

 やっと蔦と水から解放されると、どさ、と床に崩れ落ちる。

 激しく咳き込んだ。そのたびに血があふれ、自身も周囲も真っ赤になった。

 血溜まりの中で、自分の微弱な呼吸音を聞く。

(小春……)

 痛みも苦しみも絶望も、死んでから思い出せばいい。

 ただ、小春のことが気がかりだった。どうか、彼女だけは無事でいて欲しい。どうか……。

 こんなところでくたばったらもう守れないというのに、心臓は今にも止まろうとしていた。

 “死”が迫る。その現実は、受容も拒絶も受け付けない。

 霞む視界の中に、満足気な呪術師の姿がぼんやりと浮かぶ。

 そのとき、頭の奥でわずかに大雅の声がした。

『……小春が────』

「…………」

 蓮は、ふっと瞑目する。

 最後まで聞けないうちに、その命の灯火は消えてしまった。

『小春が、死んだ』

 大雅の告げた残酷な真実は、むしろ彼に届かず良かったのかもしれない。

 訪れた静寂の中、呪術師はこと切れた蓮の身体に手を伸ばした────。