「変死体が上がっても、警察が捜査もしないのは、警察内部に協力者がいるからだと思ってた……。でもそうじゃなくて、それも異能によるのかもしれないね」
「それなら、何もかも異能のせいってことですの? もう何でもありじゃない」
「うん……。つまり何も掴めやしないってこと。情報も、運営側の尻尾も」
それでは、倒すも何もない。相手は人間ではないのだ。
どう太刀打ちすべきだろう。
そもそも相見えることすら叶わないのではないだろうか。
「一旦、合流する……?」
「……そうですわね」
手詰まりとなったふたりは、窓を開けて外へ出た。
「……!」
石造りの白い噴水や手入れの行き届いた花壇が広がる庭の中央に、異質な人影が佇んでいる。
反射的に足が止まった。
「おや、ごきげんよう」
妖艶な雰囲気をまとう女が、うららたちを見て微笑んだ。
決して好意的な色ではない。
「ど、どこから現れたの……? 瞬間移動?」
紗夜は狼狽した。
広大なうららの屋敷はセキュリティも万全で、人知れず侵入することなんてまず不可能なはずなのに。
「魔術師ですの? ……いいえ、祈祷師?」
「心外だねぇ。あたしがあのばか面と同一人物に見えるのかい? 狐なのに馬や鹿とはややこしいか、ふふ」
女は扇子で口元を覆った。
紗夜とうららは警戒しながら顔を見合わせる。
「あたしは呪術師だ。無論、通称だけどね……。ほかの者もみんなそう。ただの呼び名に過ぎない。察してると思うが、あたしたちは人間じゃないからね」
「何者なの……?」
「“運営側”だ」
女の目が興がるように細められ、ふたりははっとした。
ずっと追っていた、影も形も捉えられなかった霧隠れ状態の運営連中。
やっとその霧が晴れた。
突如として訪れたこの邂逅は、果たして希望か絶望か────。
「ついでに教えてやろう。運営側はぜんぶで4名。長の陰陽師、あんたたちの知ってる祈祷師、カイハルトを殺した霊媒師、そしてあたし。……どうだい、パズルのピースが埋まってきただろ」
惜しみない情報開示に動揺してしまう。
この余裕といい、言葉といい、彼女が運営側であることにもはや疑いの余地はない。
人智を超えた力によって何もかも筒抜けだったとしたら、自分たちが運営側を探っていることもとっくにバレているはずだ。
だからこそ、牽制や警告のために現れたのだと思ったのに、どういうつもりなのだろう。
戸惑う紗夜たちとは対照的に、呪術師は楽しげに笑った。
「なぜ教えてくれるのか分からないって顔してるね。理由は簡単だ。聞いたことないかい? ……“死人に口なし”って」



