「そうだね……“天界”の住人、とでも言っとこうか」

 ふっ、と蓮は鼻で笑った。

「天界? 魔界の間違いだろ」

 その瞬間、廊下側から衝撃波が飛んできた。吹き飛ばされた扉が蓮を覆うように落ちてくる。

 咄嗟に退いたが、足首にぶつかってしまった。

 一瞬の怯みを悟った呪術師は、ここぞとばかりに水弾を放つ。

「……っ」

 何とか急所は避けたものの、脇腹に一発食らった。水とはいえ、威力は本物の銃弾と大差がない。

 脇腹を押さえた蓮は一時的なバリア代わりに、呪術師との間に炎で一線を引いた。

「痛……っ。くそ!」

 傷の具合を確認する間も、痛みに悶える間もなく、炎が消されてしまう。シュウゥ、と煙が上がる。

「ふふ、どう楽観視してもあんたはあたしに敵わないよ。前に交戦したような紛い物の水魔法とはわけが違う。あれにも勝てないあんたには、為す術なしね」

 陽斗のことだ。それまで把握されているとは、本当に得体が知れない。

 はぐらかすような回答しか得られていない。“天界”とは結局何の話なのだ。

 しかし、今はあれこれと考える余裕がなかった。

 ……どうせ敵わないのなら、貰える情報だけ貰い、逃げるが勝ちだろう。

 ぼっ、と火炎を宿し、呪術師の足元に放った。

 水魔法で消されるのは分かっているが、情報を聞き出すための時間稼ぎには使える。

「なぁ、何で俺たちなんだよ?」

 呪術師はもったいぶるように炎を無視し、蓮のそばにあった机や椅子を凍らせ始めた。

 氷はパキパキと硬い音を響かせながら、侵食するように床まで広がっていく。冷気が皮膚をなぞった。

「それは……このゲームの対象の話? それとも、あたしらがあんたや仲間を狙う理由を聞きたいのかい?」

「どっちもだ」

 パキ、と氷が蓮の脚を登り始める。さっと手を翳し、炎の熱気で周囲の氷を一気に溶かした。

 呪術師も同じように、足元の炎を消火する。

「……いいだろう。あたしの攻撃を受けてる間は答えてあげよう」

 彼女は素早く手を構え、水弾を放つ。

 蓮が避けるまでもなく、水弾は逸れて天井の蛍光灯に当たった。

 薄暗い教室内は明かりが消えているが、今の攻撃で断線し、バチッと火花が散った。

 何のつもりかと戸惑う蓮に、ばしゃっと水がかけられる。

「うわ、やっべ……!」

 堪らず走り出そうとするも、不意に足首に痛みが走った。扉の衝撃で痛めたのかもしれない。

 呪術師が蛍光灯を撃ち落とすと、蓮の真上から降ってきた。

 避けられないと判断し、咄嗟に背中で受け止める。蛍光灯は蓮の背を強打すると、床に落ちて砕け散った。

 衝撃とともに、ぴりぴりと痺れるような痛みが走る。

 まともに感電することはなかったが、先ほどから小さなダメージが着実に蓄積していっているような気がした。

 脇腹に鈍痛を感じると、銃創から鮮血があふれる。
 思わず顔を歪めた。呼吸が浅くなる。