「────桐生、平気だって」
その言葉にひとまずほっとする。
今度は奏汰が顳顬に指先を添えた。
「昨晩のことは概ねうららちゃんから聞いたよ。桐生くんの身に何が起きたの?」
『……背後から誰かにいきなり殴られた。完全に物理攻撃だったけど』
「え……」
『そいつ、うららを知ってるみてぇだった。しかもたぶん恨んでる』
それぞれが思わず彼女を見やると、彼女は眉をひそめて目を伏せる。
『おまえらも気をつけろ』
「大雅はいまどこにいるんだ?」
『病院。治療も受けたしもう大丈夫だ』
とはいえ昨晩受けた強烈な反動のこともあり、大事をとって合流は明日以降になった。
「ねぇ、うらら。桐生を襲ったのって……」
「ええ、恐らく────」
紗夜とうららは芳しくない事態を想定してか、厳しい表情になった。
「犯人に心当たりあるん?」
果たしてうららは頷く。
「結城依織 という魔術師。……いえ、元魔術師と言った方が正確ですわね」
「それって、もしかしてきみが異能を奪った相手?」
奏汰の問いに、再び首肯した。
────消音魔法の本来の持ち主は彼女だった。
以前、ステルス状態で奇襲をかけてきたところを応戦して打ち負かしたのだ。
消音魔法しか持たない依織は、異能のみで相手を殺すことが困難だった。
そのため、能力と組み合わせての物理攻撃で魔術師殺しを続けていた。
けれど、果てには消音魔法すら奪われ、いまは“無魔法”の魔術師となっていた。
そんな経緯のお陰でうららを強く恨み、異能を取り返すことはできないと分かっていながらも、復讐として殺すことに執着している。
「そんなことしとらんと、素直にガチャ回せばええのに」
「そんな簡単にできることじゃねぇだろ……」
ぼやくアリスに蓮が返す。
何を失うか分からないのだ。もしかしたら、次の代償は命かもしれない。
「心苦しいですわ、みなさまに迷惑をかけてしまって。ごめんなさい」
「自分を守っただけやろ。あんたは何も悪くない」
しかし、厄介な敵が増えたものだ。
当面警戒すべきは祈祷師、冬真の仲間、結城依織だ。
至とその仲間の魔術師はどうだろう。
彼らは敵か味方か分からない。



